まさかこの映画に感情移入することになる日が来るとは。
いまの僕は『ショーシャンクの空に』に手に汗握らざるを得ない。いまさら言わずと知れた名作。『レオン』、『パルプフィクション』、『アメリ』に次ぐ、サブカルしゃらクサムービーの一番星だ。たしかに面白い。でも「これは僕の話だ!」と膝を打ち自分を重ね合わせるような話ではない。なかった。
そう、つい昨日までは。
申し遅れました、この度より「フラスコ飯店」の店主を任されました。川合裕之です。「店主」というのは僕の考えた設定というか演出のようなもので、分かり易く端的に言うと「編集長」になります。編集長では荷が重いし面白くなさそうなので、サイト自体をひとつの店に見立て、「店主」とこのように名乗ることにしました。
はじめての方へ簡単に自己紹介をしますと、僕は24歳の在宅インドアロン毛です。簡単すぎましたね、もう少しだけ書きます。大学在学中に自分の文章を換金する術を知り、「もしやこの道を突き詰めれば家から出なくて済むのでは?毎日映画が見れる?」と錯覚しそのまま卒業後もライターに。かれこれ2年が経ちました。兵庫の西宮という所に住みつき、鎖骨まであるロン毛をひっつめてチクチクPCを叩いています。先日はついにキーボードのBack Space キーが壊れました。もう後には戻れないと言わんばかりにね。
何も成し遂げていないのに「冤罪」で編集長になってしまった。
そんな調子でWebに文章を書いて日銭を稼ぎ、辛うじて生活をしています。月収3万円の頃もあったので、その時の苦しさを思うと大したもんですよ。とはいえまだまだ若手。頑張らないといけない。上には上がいる。そんなの当然で、まだまだ2年目のぺーぺーなのだから。
……なんて思ってたら、いきなり編集長ですよ。
陰気な語り口の嫌味ったらしい自慢話に見えたのだとしたら申し訳ないのですが、当の本人は本当に冷や汗でビチャビチャなのです。ちょっと待ってくれ。僕はまだ何もしていない!何もなし遂げていない!「川合君に全部任せるからw」じゃないのよ。
この状況、「ショーシャンク」の主人公アンディと同じではないだろうか。映画開始数分で刑務所にぶちこまれるアンディ。何もしていないのに、何もまだ成し遂げていないのに「冤罪」で編集長になってしまった僕。執行猶予とかもなく、突然ここに放り込まれた。そんな気持ちでショーシャンクを改めて見てみる。どうやってアンディは窮地を脱するのか。それも改めて確認しないといけない。
きっといつか外の世界へ。誰かに見てもらう日まで壁に向かう
あっという間の2時間だった。僕は、アンディになりたい。そう思った。
アンディは、固いコンクリの壁を小さな小さなハンマーで、何年も掛けて穴を開ける。今日もコツコツ、明日もコツコツ。コツコツコツコツ。人知れずコツコツコツコツ。嘘みたいに小さな小さなハンマーでひたすら壁を叩く。誰にも見られず地道に少しずつ、されど確かな勝算を持って。必ず穴を開けて脱獄することが出来るという確信を持っていたのです。
小気味の良いテンポでの伏線回収が面白い映画だけれど、現実は映画ではない。しかし、小気味良く編集でカットされることのないこの平坦な日々こそが最も尊いのではないだろうか。いまの僕は強くそう感じる。僕もまた、誰に見られているかもわからないwebメディアで壁に向かって文字を叩こうと思う。いつか外の世界に通じて誰かに見てもらうその日を信じて叫び続けよう。
苦しいかもしれないけれど、刑務所に比べると幾分イージーモードに違いない。Wi-Fiあるし、音楽は誰の許可なしにいつでも聴ける。アンディよりかは随分ラクだ。小さなことから始めようじゃないか。「ショーシャンク」に倣うのであれば、まずは刑務所の偉いさんに気に入られることからだが、残念ながら僕はまだwebの偉いさんの知り合いは居ない。道のりは遠く長いらしい。
そんなわけで、「フラスコ飯店」をどうぞご贔屓に宜しくお願い致します。
フラスコ飯店 店主
川合裕之
解説 『ショーシャンクの空に』(1944)
監督:フランク・ダラボン
出演:ティム・ロビンス、モーガンフリーマンほか
スティーブンキングの小説を原作とした言わずと知れた名作映画。ちなみにフランク・ダラボンは『グリーンマイル(The Green Mile)』(1999)の監督でもあります。アカデミー賞に軒並みノミネートしておきながら、蓋を開けると全ての部門で受賞を逃してしまったという過去を持つ無冠の名作。日本においては「映画ファンなら誰もが知ってるベタだけど、普通の人は全然しらない」という立ち位置の作品なのかなと。いつのまにか映画オタク入門編として盤石な立ち位置を築いている1作です。
ちなみに、同じく1994年の同期作としては『パルプ・フィクション』、『フォレスト・ガンプ/一期一会』など。日本では『平成狸合戦ぽんぽこ』が代表的です。オリックスの鈴木一郎がイチローと名を改めた年であり、まだ松本人志がトガりを極めて『遺書』を出版した年です。『ショーシャンクの空に』のあらすじは概ねコラムの中で明かしてしまったが、この映画の魅力はこんなもんじゃありません。まだ見ていないという人は是非一度ご覧ください。
アイキャッチ画像:AFLO
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