(C)2013 WHIPLASH, LLC. All Rights Reserved. 弱気そうなのに文字通り死ぬほどの気迫を持っているドラム奏者のニーマン、10辛レベルのバイオレンスを振り回しながらも単なる記号ではなく人間としてそこに存在した鬼教官フレッチャー。ふたりを演じたマイルズ・テラーと J・K・シモンズの尽力も並々ならないものです。 音楽と映像がバキバキに相互作用しながらそれがストーリーにも絡みあって物語を装飾・前進させていたことは言うまでもなく、一級品の素材を集めて、もっとも効果的に配置したデイミアン・チャゼルとは一体何者…
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衣服は他者と自己を物理的に隔てる布。つまりファッションは社会からの防護壁であると同時に、社会と接して繋がるための乗り物です。 接点であるがゆえに、ときには軽々しく着こなせないような戦闘服が必要なのかもしれません。 “絶対に終電を逃さない女” はエッセイ中で東京の各地へ足を運びます。一見するとひとり完結しているエピソードもありますが、他者との関わりや観察を経て自身を見つめ直します。 (僕はかねてから “絶対に終電を逃さない女” のファンですが、仮に前情報が皆無だったとしても)本書をひらけば、嘘みたいなペンネームの彼女が架空の存在ではなく…
(C)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved. 複雑な映画だった。だから『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にはいろんな読解 / 解釈 がある。 しかし、こういうのはどうだろう。これは自己同一性の映画だ。 そう考えると、「なぜ靴を反対に履くのか」「なぜベーグルなのか」の理由が見えてくる気がします。「なぜクィアな人たちばかりにスポットライトが当たるのか」の説明も、多分これでなんとかなると思います。 ちなみに、難解でお馴染みのテレビ版エヴァンゲリオンの「おめでとう」…
異様な速さで出世した天才・デイミアン・チャゼルの新作ときいて、見逃さないわけにはいきませんが、今回もまた変な映画を作ったものだなと感心します。 『ラ・ラ・ランド』は好きだったけど、『セッション』は痛々しくて見ていられない。あるいは逆に『セッション』は何度も何度も見返してきたけど、『ラ・ラ・ランド』の甘ったるさが耐えられない——というような人は少なくないのではないでしょうか。 僕もそのひとりでした。この記事は、3時間もかけてハリウッドの栄枯盛衰を描いてそれが結局何なの? という核心を捉えるために書いたものですが、『バビロン』の真の主題が…
あたらしく自転車を買った。嬉しくて無闇やたらに走り回っているとこんなところに喫茶店があったのかと虚をつかれる。年季の入った木造住宅の玄関先には白いペンキで “珈琲” とだけ書かれた、これまた年季の入ったボードが掲げられている。中を覗かずとも店の2階が居住スペースであることが一目瞭然で、いかにも僕が好きそうな佇まいである。
知ってさえいればもっと早くに来たのにと思いながらその喫茶店を通り過ぎ、次の信号で行儀良く停止する。待っているあいだ、こんなに近所にあるのにどうして気がつかなかったのだろうと思う。
多くの子供がそうだったように、自分にもその昔夢があった。何にでもなれるような気がしていた。 映画を観るようになった10代前半の頃、私はスクリーン上で繰り広げられる人間模様に感動し、登場人物に想いを馳せた。映画を観て世の中にある職業を知り、将来について色々想像した。 ロビン・ウィリアムズがお気に入りだった。『レナードの朝』や『パッチアダムス』で医者を演じる彼に影響されて、自分も医者になりたいと思い、『グッド・ウィル・ハンティング』の彼を観て心理学者もいいなと思ったりした。 ゆとり世代だからか、小学校や中学校では将来の夢について作文で書く…
高校生のころ、部活の先輩が電車のなかでハンバーガーを食べようとするのを止めたことがある。他の乗客からの視線もあり、車内でマクドはマズイと諭すと、先輩はこう答えた。 「食べていいか考えたんやけど……ジョン・レノンやったら、電車でハンバーガー食べるやろなと思って」 あのとき、自分は車内に持ち込まれたマクドナルドの袋を、はっきり「異物」と捉えていた。 周りもそうなのだろう。ポテトのニオイが持ち込まれると、乗客は一斉に不満を表明しだす。ムッとした表情がニオイの主を探し出し、舌打ちまで聞こえることもある。自分も同じ感覚だったからこそ、ジョンを模…
IMDbより わたしが故郷を出ると決心したのは小学生の頃だったらしい。「こんな家はもういやだ、はやく出て行きたい(でも今は無理だからもう少しがまんしよう)」と書き殴ってゴミ箱に捨てた日記を親が発見し、数年経ってからそのことを教えてくれた。 高校生になったわたしは迷わず県外の大学を志望し、就職を機にその場所から離れ、退職後さらに違う土地へと移った。思い返せばこの10年間、故郷から離れ続けている。自分で選んだ道を進むことは幸せであり、時に苦しみを伴うと理解するには十分な時間でもあった。わたしの生き方は珍しくない、どこにでもある話だと思って…
©️1986 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. 12歳の頃、友達を探していた。12歳が終わるまでに親友と呼べる存在が欲しかった。日々失われる少年時代。中学受験を控えて私は焦っていた。というのも、映画『スタンド・バイ・ミー』の最後にある言葉を額面通り信じていたからだ。 「あの12歳の時のような友達はもうできない」 エンディングが流れる前に、作家となった主人公がコンピューターに打ち込む言葉。 それを見た小学校低学年の私は、「親友を見つけるなら13歳…