I’m back. Omatase. 

拝啓
| 映画『明け方の若者たち』『ボクたちはみんな大人になれなかった』ほか

(C)2021 C&Iエンタテインメント

忘れた頃にいきなり現れて、おもむろに心臓を握ってくる。とてもじゃないけど、息もできない。そして、いきなりいなくなる。本当なら、会った瞬間にぶん殴って、叫びながら逃げた先の河原なんかで涙のひとつでも流してやりたい。なんで戻ってくるんだよ。とっくにさよならしたはずなのに。すれ違うだけで、苦しくてしょうがないんだよ。

でもさ、やっぱり会えるとなんだかんだ嬉しいんだ。色々とひどいことを言ってしまってすまない。謝るよ。本音を言うと、どこにいたの、探してたよ、って感じなんだ。実のところ、君に会って心が震えているうちは、僕はまだまだ大丈夫なんじゃないかなって思ってる。素直だろ。だから、忘れないように君のこと、君に会ったときのことを書いておくよ。できるだけ、いつまでも覚えておきたいから。

僕はといえば、すっかり「僕と書いて愛」とは読まなくなってしまったよ。ああ、そう。彼は、相変わらず。君なら、そんなの前前前世から予想していたかもしれないけど。でも、僕も、愛にできることはまだあるんじゃないかとは考えているよ。きっとそれはいくら汚れてしまっても変わらないはず。と、思いたいけど、まあ、これからどうなるかわからないよね。ただ、愛は今でも二日酔いだけは防いでくれないし、治してもくれないよ。これも相変わらず。愛がなんだ。うるせぇバーカ。

文・西川タイジ

1986年山形県生まれ。『トーキョーブンミャク』運営。肩書きは特にありません。好きに呼んで下さい。編んで書いて読んで飲んで観て聴いて泣いています。

→トーキョーブンミャク刊行の最新作
『さよならシティボーイ』について詳しくはコチラ

そんなことを思っていたら、この前観た『明け方の若者たち』で、スクリーンの中の二人は、夜の公園で彼らのアルバムの三枚目と四枚目のどっちが最高かを飲みながら話していたよ。僕は四枚目派だけど、三枚目にとても好きな曲が入っているもんだから、とても悩ましい問題で、本当はこの会話に答えなんか無いんだと思う。明日には逆になっているかもしれない。答えの無い会話をダラダラできるってことは、舞い上がっている証拠なんじゃないかと思ったよ。恋の始まりってやつだ。二人ともそうだったかは、微妙なところだけど。

(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

始まったということは、終わりがくるのが世の常で、王将で酔っぱらいラブホまで手を繋いだあの日が懐かしいという具合に楽しい日々は続きつつ、ノーフューチャーにまっしぐら。仕事も恋も「こんなはずじゃなかった」の雪崩の前に、主人公の心も折れるよこんなんじゃ。ハッピーエンドへの期待なんてできないじゃん。なんてこった。以前、原作の小説のことを書いたけど、好きなシーンが色々端折られていたのがちょっと残念だったかな。そこが観たかったのにって感じ。でも、映画からこの作品に入った人は、小説をめちゃくちゃ楽しめるはず。また読み直そうかな。

逆に小説に全然ハマらなかった『ボクたちはみんな大人になれなかった』の映画は、とても素敵だったよ。特に SUMIRE がすごい良くてさ。バックボーンというか、住む世界が全然違う人に惹かれてしまうことあるじゃん。で、結局色々あってダメになるんだけど、強烈に覚えていたりしちゃってさ。SUMIREを引き金に、そんな恋もあったことを思い出したよ。

(C)2021 C&Iエンタテインメント

グダグダ言いながらもずっと同じ仕事、職場で働いてるところや、結局妥協しながらも大人になったつもりで現実のぬるま湯に浸かりそんな日々に苛立ちつつも時が流れていってしまう感じの主人公に少しのシンパシー感じて苦しくなったりもした。苦労していたあの日々も、すっかり無かったことになっていて、飲み会でうっかりつまらない昔話をしてしまいそうになるのをぐっとこらえてる。いや、酔ってるときにしてしまっているかもしれない。あの頃、大人だと思っていた人達の年齢を超えてみて分かったのは、結局誰も大人になんかなってなかったってことだよな。でも、大人ってなんだ。渋谷駅前は今日もうるさい。

渋谷といえば『スパゲティコード・ラブ』も、すごくいい映画だった。長いこと働いていたシティは、今では何だかすっかり懐かしいという感覚にもなったりする。もうあの街にいないという事実も、少しだけ感傷的な気持ちにさせているのかも。いや、飲みには変わらず行ってるし、好きな店もたくさんあるんだけどさ。

若さというのは、くだらないことに熱量と時間を費やすもので、登場人物達も漏れなく全員そんな感じ。はっきり言っておきたいんだけど、くだらないというのは、ダメとか下に見ているってことじゃないよ。そのくだらないことが全てだったときがあって、その上で今があると思ってるし、むしろ、くだらないことに全力で集中したり全力で悩んだり、執着したりできる期間がどんなに尊く愛おしかったかを思い出させてくれた。くだらないの中に愛があるって言うでしょ。たしかにあったと思う。今になってやっと分かったって感じだけど。まあ、そんなもんだよね。いつだって。

(C)「スパゲティコード・ラブ」製作委員会

ここまで書いたどの話にも、あの頃の友人がいて、あの頃のあの子がいて、そして君がいた。つまり、いつでも会えるってことで、そんな作品に出会えたことは、とても幸福なんじゃないかなって思えるよ。そう思える自分は、好きでいたい。

そうそう、これも伝えておかなくちゃ。いつか、僕が何も感じなくなってしまったら、もし、君が見えなくなる日が来てしまったら、そのときの僕はゾンビのようなものだと思ってくれて構わない。肉体はあるが、すでに死んでいる状態だ。ひとおもいにショットガンとかで撃ってくれて構わない。寒いのは苦手だから、なるべく暖かい季節がいいかな。できれば、夏の終わりのプールサイドで。それか、春の風の中。

それでは、また会える日まで。

きっとすぐだろうけど。

 文・西川タイジ
編集・和島咲藍

実際あると正直すごい嬉しいです(店主より)

西川さんからのお知らせ
(ドンドンドンパフパフ!!)

出版レーベル「トーキョーブンミャク」から、著:すなば『さよならシティボーイ』を2021年10月にリリース & 12月に重版出来致しました。是非チェック頂ければ幸いです。

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お取り扱い書店はこちらから

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★大阪京都ツアー★

関西の皆様にお知らせです。大阪京都ツアーを決行致しますので、お時間ありましたら是非遊びに来てください!

大阪のtoi booksさんで1/15(土)にすなばさんと一緒に一日店長をさせて頂きます!


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翌日1/16(日)には文学フリマ京都に初出店させて頂きます!

ブースは【か-24】です! 合わせて是非!

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書籍詳細

※B6サイズ / 328P

※特典『トーキョーブンミャク』ステッカー付き(栞代わりにも是非)

※こちらの商品は汚れ防止の為、ビニールフィルムカバーにて包装をしております。

※表紙の仕様、材質上、表紙にキズやスレがつきやすくなっております。ペーパバックの特性として、ご理解頂ければ幸いです。

★感想、たくさん頂いております! 是非ご一読ください!

https://note.com/nskw_cb_pp/n/n7fd2181a6acb

★著者すなばさんの刊行のご挨拶(というかエッセイ)も公開されております。
 まえがきも全文公開されておりますので、試し読みとしても是非。

商品について

『あんなカーテンがほしいと空をみて』

都市に暮らす、文章を奏でる。まさに読むシティポップと呼べる作品が完成致しました。
是非、著者のリズムやグルーヴ、言葉から溢れる情景を味わって頂ければ幸いです。

甘酸っぱかったり辛かったりした10代の記憶、日々の暮らし、命について、詩、自由律俳句、映画、インターネット、BUMP OF CHICKEN、銭湯とサウナ、コロナ禍とまさかの感染、沖縄、小豆島、京都への旅行記など、著者のこれまでを網羅した渾身のエッセイ集。

ラストを締めくくるのは、本書の記憶を巡るような短編『夜の二人』。そして、巻末には著者と長く親交を深めるライターの生湯葉シホさんに解説を書き下ろして頂いております。最後までお楽しみください。

※本書は著者のブログ『僕の詩を返せ』や各種SNSで公開された随筆等を加筆・修正し書き下ろしを加えたものです。

著者 / 写真

すなば

1991年生まれ。広島県出身。東京在住。
会社員として働く傍ら文筆家として活動。エッセイのほか小説、短歌、自由律俳句なども発表している。海とシティが好き。

共著『エンドロール』(PAPER PAPER)、寄稿『飛ぶ教室 第57号』(光村図書出版)など。今作が初の単著となる。

解説

生湯葉シホ

ライター / エッセイスト。1992 年生まれ。飼っている亀が22 歳になった。

https://note.com/chiffon_0
ブログ「湯葉日記」: http://yubalog.hatenablog.com

収録作品

■まえがき

■シティボーイ編
 ・シティボーイなのにうんこを漏らした
 ・プラネタリウム
 ・「私、結婚できるのかなぁ」
 ・ 七・二七事件~猫と僕らとニクいアイツの熱い夜・激闘終結編

■シティの暮らし編
 ・サンドイッチとロックアイスを入れたアイスコーヒー
 ・「床磨く日々」が僕たちを救う
 ・心に「ギャル」「OL」「ボーイ」を住まわせる
 ・幸せを問いかけてくれた人へ
 ・眠る前の話
 ・大丈夫になった日
 ・チリはたまる、心は散らかる

■シティで命を思う編
 ・人が死ぬということ
 ・傷つけられた人へ
 ・メジロを拾った日
 ・猫の生、詩の嘘
 ・ベランダにオランウータンがいた

■シティと愛情編
 ・「職業」+「アイテム名」のファッションアイテムはかっこいい
 ・ポエムを笑う人も詩に生かされている
 ・「笑ってもブス」
 ・インターネットでの争いについて(踊るのをやめてしまったサボテンに捧ぐ)
 ・BUMP OF CHICKENについて語るときに僕の語ること
 ・武蔵小杉で夢を聞いてきた彼女のこと

■銭湯 イン シティ編
 ・銭湯と杖
 ・夜の飯田橋と銭湯、あるいは川底の街
 ・サウナ今昔

■非常事態シティ編
 ・日々は日々の桜並木
 ・春がすぎれば
 ・「権力」の気配と丁寧な暮らし
 ・ コロナ日記

■シティ脱出編
 ・僕と沖縄
 ・知らない海辺
 ・京都一人逃避行

■夢想シティ編(短篇)
 ・夜の二人

■あとがき

■解説 
 ・水の音がよく響く部屋 生湯葉シホ


●created by トーキョーブンミャク
●Produce:西川タイジ
●Book Design:近成カズキ
●モデル:映

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https://tokyobmk.base.shop/

・お取り扱い書店はこちらから
https://note.com/nskw_cb_pp/n/nb412e011761f

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