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細田守監督作品『サマーウォーズ』解説 | デジモン時代から続く「実線」のこだわり

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

夏。緑と青空、セミの声と氷が溶けてグラスの中で傾く音、雨上がりのアスファルトの匂い、山下達郎の歌声。ぼくは日本の夏が大好きだ!

そんな「夏」というアウトドアなイメージに対して、真逆のインドアなイメージのインターネットの世界をぶつけて混ぜ合わせ、リンクさせて物語を作り上げた作品が細田守監督の『サマーウォーズ』(2009)である!

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現実世界とインターネット上の世界OZ(オズ)がリンクし、世界崩壊の危機をひとりの少年、健二とヒロイン夏希の親戚一同が救うというアクション映画でありながら、日本の夏のノスタルジックも味わえる名作である。

2009年夏に、山にも海にも出向かずに、エアコンのきいた劇場で夏を体感できるということで、ぼくは映画館へと向かった。当然公開して間もない作品だったため、ぼくは『サマーウォーズ』を観たことなんてなかったはずなのに、その世界観や設定に妙な既視感を覚えた。インターネット上の世界と田舎の風景や世界中の人々の生活がリンクし、脅かされていくという設定。そして、あの作品の世界観にワクワクする気持ち。やっぱり、確かにぼくは知っている。

そう!『サマーウォーズ 』(2009)を観ている時に蘇ってきたこの微かな既視感は、小学生の頃劇場で観た『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)の記憶である!

IMdbより

日本の夏。現実世界とネットの世界。『サマーウォーズ 』は『ぼくらのウォーゲーム!』の焼き増しだと言われていたりもするのだが、ぼくはそうとは思わない。どう考えても細田守監督の「できること」が増えた2009年に思い入れのある設定や世界観をもう一度作り直し、アップグレードしたのだ。

そして!今回この両作品を見返してぼくが一番気になった共通点は「線の書き分け」である!

現実世界とネット上の世界OZを差別化するために手描きとCGに描きわけているのはもちろんだが、それだけではない。キャラクターを描くための実線が現実世界では黒、OZの世界では赤を使って描かれている。この手法は2000年公開の『ぼくらのウォーゲーム!』でも共通している。

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監督が思い入れのある作品のアップグレードの際に設定や世界観だけでなく、この線の描きわけまで『ぼくらのウォーゲーム!』から変更を加えずに採用したのにはどんなこだわりや理由があるのだろうか。

アニメという仮想現実の中のさらに架空現実OZ(オズ)

この『ぼくらのウォーゲーム!』(2000)から共通する線の色のを描き分けや背景の描き分けはどのような理由で『サマーウォーズ』(2009)にも採用されたのだろうか。

『サマーウォーズ 』が公開された2009年は作中でもわかるようにまだガラケーとスマホのシェア率は断然ガラケーの時代である。アメリカから帰ってきた41歳、IT関係のトップを走る侘助(わびすけ)おじさんだけがギリギリiPhone3GSらしき機器を所持しているくらいであとの登場人物たちはガラケーやNintendoDSらしき機器でOZへとアクセスしている。

そんなSNSやスマート家電どころか、スマホですらも今ほど一般的に普及されていない時代にOZ(オズ)という世界を描いていること自体がこの作品の第一の魅力である。OZの世界ではアクセスしているそれぞれの人たちがアカウントを保持していて、そのアカウントにはユーザーがそれぞれ自由にアバターを設定することができる。

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

OZのシェア率は全世界で10億人以上。全世界中の人々が登録しており、使っていない人が珍しいほどだ。2009年の頃は想像もしていなかったが、もはや近い未来「有り得るサービス」という印象にまでネットの普及が進んだことを実感する。

CGで描かれた背景はOZ、手描きで描かれた背景は現実世界。そして、黒の実線で描かれたキャラクターたちは『サマーウォーズ』の世界の中に実在するキャラクターであり、赤の実線で描かれたキャラクターはOZの中のアバターである。いちいち説明しなくても映画を観ながらでも大体の人が理解できるとても親切な作画が採用されている。

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

というのも、当時はまだ今のように「アカウント」や「アバター」という言葉に親近感があるものではなかった。そんなOZの世界を観客にひと目で伝えるために用いられたのがCGの背景に赤色の実線で描かれたアバターのキャラクターたちなのである。

ここで一つ、加えて強調しておきたい。この赤の実線で描かれたアバターたちはもちろんインターネット上の存在。仮想現実の世界の住人である。しかし、黒の実線で描かれたキャラクターの健二や夏季も「アニメという仮想現実の中の住人」であるということ。

アニメという仮想現実の中のさらに仮想現実、それがOZなのであるということ。細田監督はアニメという仮想現実の世界の中にさらにもうひとつOZという仮想現実の世界を作り上げたのだ!

つまり、OZとは仮想現実の中のさらに仮想現実な存在である。それを観客に言葉ではなく、作画で伝えるためにOZの住人のアバターたちを赤の実線で描いたのだ!そして、そんなアニメ監督魂溢れるこの手法は『サマーウォーズ』(2009)公開の9年前である2000年『ぼくらのウォーゲーム!』の中で既に用いられていたのだった!

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

ぼくが『サマーウォーズ』を観た時に一番最初に「なんか観たことあるぞ?この感じ…..」と既視感を覚えたのはこの実線の使い分けであった。そんな細田監督のアニメ魂がこもった実線の描きわけの考察をさらに進めよう!

だから背景には実線を使わない

先ほど、CGで描かれた背景はOZ、手描きで描かれた背景や美術は現実世界。と説明したが、OZの世界も現実世界も背景の作画には実線を使用しない。それは「アニメの中の現実とキャラクターの実在度による親近感」を演出している。

現実世界の舞台である陣内家のお屋敷の中では先祖代々伝わる合戦の歴史が語られ、それを表す鎧兜が飾られている。一歩お屋敷を出ればまるで写真のような青空が広がり、緑の生茂る山々は画面越しにマイナスイオンを出しているのではないかと勘違いしてしまいそうになるほどリアルに描かれている。これにより観客は「このアニメはぼくたちの住んでいる現実世界が舞台になっているんだ」と感じることができ、さらに観客本人の綺麗な青空を見た実体験などを作品とリンクさせることで『サマーウォーズ』という作品に対する親近感が増す効果が得られる。

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

それはより我々が住む現実の世界に近いリアルな絵。つまり、よりリアルに近い背景画と時代背景を描き、親近感を植え付けたところに実線で描かれた「あくまでアニメだ」というキャラクターたちが登場する。

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

現実世界に生きるぼくたち観客はまるで現実世界のような背景画に見惚れ、さらにその奥の仮想現実であるキャラクターたちの物語に心が動かされる。

つまり、背景画には実線がなく、キャラクターに実線があることで現実と仮想を既に描きわけていたのだ!

そして繰り返しにはなるが、そのさらにその奥の仮想現実世界OZではCGが使われ、アバターの実線は赤色。この仮想現実の奥の奥までもを描くことで「やっぱり夏の景色は最高だ!」と思わせる技術!細田監督!あっぱれ!

アニメから教わる現実世界の美しさ

現実世界ではありえないような夢の世界が広がる作品。それが本来アニメーションの起源であった。そのアニメの世界が発展してよりリアルに、まるで実写のような動きに辿り着いた現代のアニメ業界。

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

そんな中で今までアニメ映画ファンが注目したリアルな動きや激しいアクションという技術だけでなく、実線の色の使い分けという技法によって新たな世界観を描き上げた細田監督のアニメ監督魂。そのこだわりを強烈に感じながらまたぼくはエアコンのきいた部屋の中で今年の夏を過ごすのだろう。

いや、今年はアニメには描けない現実の青空を眺める時間を作ってもいいのかもしれない。仮想現実から教わる現実世界の美しさを今年は体感したいものだ。

 文・金城昌秀
編集・川合裕之

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解説『サマーウォーズ』(2009)

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

監督:細田守
脚本:奥寺佐渡子
出演:神木隆之介,桜庭ななみ

細田守の初の長編オリジナル作品で、脚本の奥寺佐渡子、キャラクターデザインの貞本義行など、『時をかける少女』のスタッフが製作した。

ストーリーラインに細田の過去作『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』からの影響・類似点が散見される。

本作品で登場する仮想空間OZは、TwitterをはじめとするSNSとよく比較され、『サマーウォーズ』のTwitter公式アカウントと連動して作中で登場するこいこい(花札の遊び)のアプリケーションが公開されるなどした。また、テレビ放送時には、作中での登場人物の行動・台詞になぞらえて「あなたのアバターを貸してください」というツイートがTwitter上に書き込まれて拡散され、最終的には3000人前後が参加する企画となった。

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執筆後記:夏を感じたいときの映画TOP3

2009年夏に劇場公開された映画『サマーウォーズ』はぼくが日本の夏を感じたい時に観る映画TOP3にランクインする作品だ。夏は人をノスタルジックな気持ちにさせたり、特に何があるわけでもないのに期待を煽ってくる季節だから困ったものだ。夏は山や海に出向いて美味しい空気をたくさん吸いながら綺麗な景色を眺めて過ごしたいのだけど、なんだかんだ毎年エアコンのきいた部屋で過ごしているような気がする。

ちなみにTOP3にランクインするもうふたつの作品は『ウォーターボーイズ』(2001)『菊次郎の夏』(1999)かな!日本の夏にはノスタルジーと青春が詰まっているんだな。

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金城昌秀

ロックバンド「愛はズボーン」でGt.Voを担当。 様々なアーティストのMV監督や動画編集、グッズやCDジャケットといったアートワークも手がける。

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