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ジャン・バルジャンの目を通して学ぶ「フランス革命」
| 映画『レ・ミゼラブル』

世界史は小難しい受験科目。そう思い込んではいませんか。いいえ、きっとそんなことない。

難しそうな世界史だって、ひとりひとりの人間の営みの積み重ね。

その奥にはドラマがあります。映画を通して世界史を学んでみましょう。呪文にしか思えない横文字だって、親近感がわいて覚えやすくなるかも?

ライターのMinamiさんが教えてくれます。

#春から〇〇大学。受験が終わった!春から遂に夢のキラキラキャンパスライフ!のはずが、某ウイルス様により楽しみの全てが台無し。入学式も中止、私は本当に大学生? 現実はただの引きこもり。

合格直後に抱いたあの気持ちは宙ぶらりん。

それにしても、この暇な時間を何かに生かせないものか。そうだ!あれだけ頑張った受験「世界史」を映画を通して全国のこれから受験を控える学生、そして世界史を学びたい人たちに伝えよう。いかにも人格者な動機を持った、“たぶん”大学生のお話にお付き合いください。

記念すべき第1作目は何にしよう?

そうだ、あの作品にしよう。私が受験勉強がきつくなって「これなら世界史だし、見ても大丈夫。」とこっそり見てしまった『レ・ミゼラブル』。

切羽詰まった受験生が見ても罪悪感を持たなくて良いくらいには勉強になります。

『レ・ミゼラブル』はどういう映画?

(C)Universal Pictures

時は1815年。パンを盗んだ罪で19年もの間投獄されていたジャン・バルジャンは仮釈放の身となったが、飢えて彷徨い辿り着いた先の教会で再び銀の食器を盗む。罪はすぐにばれ、教会に再び連れてこられたバルジャンだが、司教は罪を赦し、彼が盗んだ銀を彼に渡す。そしてこう語りかけるのだった。

「この銀を正しい人間になるために使いなさい。神はあなたを深い闇から助け給うた。私はあなたの魂を救ったのです。」

激動のフランス革命下を生きたジャン・バルジャンの半生を愛と生命とともに熱く描ききった作品だ。

“激動の時代”を愛で貫く

この作品を私は大体1年に1回の頻度でみる。2012年、10歳で初めてみた時には感じなかった、そしてつい先日みた時に心を動かされたもの、それはこの映画にみなぎる愛。愛と言われて男女間の恋愛しか想像できなかった、そんな私がまた少し成長したのかもしれない。

慈愛、親子愛、恋愛、ある意味ジャベールの国家への忠誠も愛と呼べるのかもしれない。人は「愛」「LOVE」という単語を聞いた時、多くの人はきっと何かキラキラしていてピンクや赤の可愛らしいものを想像する。

しかし、「レ・ミゼラブル」の世界では貧困、飢え、伝染病や格差が蔓り、到底綺麗と言えるものではない。街は薄汚れ、美しさのカケラもない。ただ、そこには愛がある。この作品の登場人物はみんな何かしら大きな愛を持っている。私はこの映画にみなぎる愛が好きだ。

聞きたくない単語No.1「フランス革命」

入試本番1日目。世界史の問題を開く。「革命下のフランスについて次の問いに答えなさい」。あんたには一番出会いたくなかったわよ!と眉間に皺を寄せながら問題を解く。(実話)

多くの人に「世界史といえば?」と聞くときっとたくさんの人がヨーロッパ史の大イベントであるフランス革命を想像するはず。

王妃マリーアントワネットの豪華絢爛な生活と哀れな最期、虐げられた貧民が力を合わせ王を処刑する物語、そして孤高のヒーローであるナポレオン・ボナパルトの登場。言葉の響きを聞くだけで胸がドキドキするロマンがフランス革命にはある。いや、あり過ぎてしまった。18世紀末のフランス革命の「スピード感」はすごい。フランス革命を年表にしてみるとわかると思うが、世界史には珍しく数ヶ月単位で目まぐるしく重要事件が巻き起こる。フランス革命という言葉を分かりやすく言い換えると「当時の民衆の鬱憤が爆発して力で政治体制を物凄いスピードで変えていく」という感覚。

そういうわけだからこのフランス革命のスピード感は民衆の怒りの大きさを物語る。後世で世界史を学ぶ人間に言わせれば「もっとスローライフで!そんなに急がなくてもいいじゃない!」と言いたくなる。しかし、当時の民衆はもちろん待ってなんかくれない。

さぁ困った受験生。

これでは並べ替え問題に出会ったら即アウトだ。そんな時に武器になったのが『レ・ミゼラブル』。この作品はフランス革命下で生きる人々を描く映画なわけだから、その登場人物の視点でみてみよう。その名も「なりきりジャン・バルジャン」だ。

そもそもフランス革命って?

結局フランス革命って何? という話だが、これをもしYouTubeの動画タイトルにしてみると「数種類ある人類が生み出した政治体制を超短期間で全て試してみた!」みたいなところが妥当だろう。その政治体制とは、共和政・王政・帝政その他エトセトラみたいなものだが、現代で考えれば「天皇が治めていたと思ったら、総理大臣が治める世の中になり、でもうまくいかないから議会を一番偉くしよう。いや、でもグダグダするからやっぱり1人偉い人がいた方が…..」を100年くらい延々と繰り返すという感覚かもしれない。受験世界史で大変なのはそのひとつひとつに似たような名前がついていて、尚且つその政治体制の区別がつきにくい、そして順番がわからないといった点で、正直地獄である。

激動の時代を生きたヴィクトル・ユゴー

『レ・ミゼラブル』作者ヴィクトル・ユゴー。そもそもこれ自体が世界史Bでは19世紀の文化史として頻出事項。この作品を予め見ておくだけで学校の世界史の授業で「見た見た!」という気持ちで1人で勝手にムフムフしていられる。それだけでちょっと楽しい。

作者であるヴィクトル・ユゴー自身の人生を見てみるとかなりフランス革命の渦中を生きた人物であると思われる。ユゴーの父はナポレオン・ボナパルトを支持し、母は共和主義者だったらしい。その幼少期に経験した家庭内のいがみ合いが後に「レ・ミゼラブル」のマリウスの祖父と父の政治思想対立に影響していると考えられている。また、彼は第二帝政期にルイ・ナポレオン(ナポレオンの甥っ子、あの有名なボナパルトとは別人)を批判し、19年間ベルギーのブリュッセルに亡命している。そして彼はその最中に人間愛の本質に触れた本作を執筆、完成させた。ユゴー自身がまさに「レ・ミゼラブル」内で革命の波に翻弄される一市民だと考えられる。

なりきりジャン・バルジャン!

さて、先ほど述べた通り受験生泣かせのフランス革命、それを少しでもわかりやすく楽しく覚えられるようにこの物語の主人公であるジャン・バルジャン年表と実際の年表を掛け合わせてみよう。

1796年 バルジャン投獄

映画の始まりは1815年からであるものの、物語の実質的な始まりは1796年。バルジャン曰く1815年の時点で19年間刑務所にいた、ということなので計算すると1796年に盗みを犯したことがわかる。1796年はそこまで重要な出来事は起こらないものの、1795年は盛り沢山。ロベスピエールの恐怖政治が終わり、1795年には新しい憲法が制定。通貨であるフランが導入されたのも1795年、つまりバルジャンはそんな荒んだ社会情勢の下で妹とその子どもたちを養いながら極貧生活を送っていたということになる。ちなみにフランスとはあまり関係ない事項だが、1796年といえば、あのロシアの女帝エカチェリーナ2世が崩御した年でもある。

そして、バルジャンが投獄されるトゥーロンの刑務所。実はこのトゥーロンという場所、あのナポレオンが1794年に初めて戦いで名を挙げた場所でもある。奇しくもナポレオンが有名になり出すのも1795年頃。まさにジャン・バルジャンはナポレオンとすれ違いのように生きている、と言っても過言ではない。

1815年 バルジャン釈放

19年後、映画の始まりであり、バルジャンが仮釈放になった年。1815年は世界史的には絶対に外せない年号。まず、エルバ島に流されていたナポレオンが島を脱出、フランスに戻ってくる。それを受け、「会議は踊る、されど進まず」だったウィーン会議が大焦り、結果ウィーン議定書が調印。その後、ナポレオンのあの有名な百日天下、しかしワーテルローの戦いで敗北。セントヘレナ島に再び流刑。この一連の出来事が全て1年間に巻き起こる。そんな大変な年にバルジャンは出所してきた。こうしてみると、やっぱりバルジャンとナポレオンはすれ違いのように生きている。ユゴーはそれも考慮しながら書いたのだろうか。それは神のみぞ知るところ。

1832年 バルジャンと学生運動

そして物語の山場であり、クライマックスともなる1832年。ファンティーヌから引き取ったコゼットを育て上げ、パリに住むジャン・バルジャン。たくさんの乞食が金持ちに群がり、現代の「芸術の都」なんて洒落た言葉からはかけ離れたパリの街。その中で「小さな」ガブローシュはこう歌う。

かつて僕たちは国王を殺したが、今はまた別のダメな王がいる

ここでいう殺された王はルイ16世、そしてダメな王はルイ・フィリップのこと。実はこの2年前の1830年には七月革命が起こり、フランスは一つの転換期を終えたばかり。2年しかたっていないのにルイ・フィリップ、なんとも酷い言われよう。そして作品の通り、1832年の時点で打倒七月王政の気運が高まり、巻き起こるバリケード政防戦。かの「六月暴動」である。

しかし、これには要注意。実は教科書に「六月蜂起」という1848年の出来事があるのだが全くの別物。「暴動」と「蜂起」で日本語のニュアンスは似ているせいで、非常に混同しがち。兎にも角にも、この時代のフランスは今のコロナ騒動なんか比べ物にもならない社会不安。政府に反旗を翻していた大学生のマリウスとバルジャンが大切に育て上げコゼット。2人は恋に落ちる。マリウスへの思いを諦め、涙するテナルディエの娘、エポニーヌは「On My Own」を歌う。ジャン・バルジャンは葛藤の中、バリケードから怪我をしたマリウスを救い、下水道を進む。そしてコゼットの幸せを願い、マリウスにコゼットを託す。そんな濃密な人間ドラマはこのような社会背景のもとで起こっていたのである。

「世界史の時間、ちょっと鼻高くいたい」

長々と解説してきたが、結論はレ・ミゼラブルを通して難しいフランス革命を楽しんで欲しい。たったそれだけ。世界史の先生が「ナポレオンが〜」と説明している時に「あ〜ジャン・バルジャンは今監獄の中か」って考えていたら、周りより一枚上手な気持ちになれるはず。

今まで眠かった世界史の時間に起きていられた。ちょっと楽しく感じた。それがきっと映画のもつ色々なパワーのひとつのお陰であると信じたい。そしてそのパワーに1人でも多くの人がこの記事を通して気づいてくれたら嬉しい。

 文・Minami
 絵・miharu kobayashi (@386_drawing)
編集・川合裕之(店主)

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>フランス革命史〈上〉 (中公文庫)

解説『レ・ミゼラブル』(2012)

監督:
トム・フーパー

出演:
ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、エディ・レッドメイン、アマンダ・セイフライド

1980年にパリで上演、その後ロンドンのウエスト・エンド、ニューヨークのブロードウェイと瞬く間に人気になったミュージカル『レ・ミゼラブル』の映画化作品。音楽は舞台と同じ、クロード=ミシェル=シェーンベルクによる作曲で、ほぼ全編、セリフが歌で構成されている超本格派ミュージカル映画。監督は『英国王のスピーチ』でアカデミー賞監督賞を受賞、最近ではいろいろな意味で(?)話題となった『CATS』の監督でもあるトム・フーパー。ミュージカル映画としては珍しく、画の撮影とともに歌を歌い、吹き替えどころかアフレコすら一切使わなかったキャストの迫真の演技と生歌が大きな魅力であり、公開当時大きな話題を呼んだ。

>『レ・ミゼラブル』 (2012)  (字幕版) 【prime video】

>『レ・ミゼラブル』(2019)(字幕版)【prime video】

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