Te wo Arai mashou.

18世紀の泥沼戦争を生きる主人公の運命や如何に
| 世界史でみる『バリー・リンドン』

世界史は小難しい受験科目。そう思い込んではいませんか。いいえ、きっとそんなことない。

難しそうな世界史だって、ひとりひとりの人間の営みの積み重ね。その奥にはドラマがあります。映画を通して世界史を学んでみましょう。呪文にしか思えない横文字だって、親近感がわいて覚えやすくなるかも?

みなさん、最近何してますか?家でゴロゴロ?昼夜逆転生活?

巷では「この期間に勉強した人間が人生に勝利する」なんて言われております。

というわけで、今日も映画を見つつ、世界史を勉強する。究極の二刀流でコロナが終息した後の世界に挑む準備をしよう。

今日取り扱う映画はスタンリー・キューブリック監督作『バリー・リンドン』。

ヨーロッパがお互いの国への欲望を剥き出しにし、戦争を繰り返す18世紀に、1人の地味な男が栄光を手にし、欲望のために破滅していく姿を淡々と描いた作品である。

“これは映画ではなく絵画だ”

IMDbより

ひとつ例え話をしよう。今までの人生であまり映画を見てこなかった友人を部屋に連れ込み、「キューブリックの『バリー・リンドン』っていう映画、おすすめだから見て」と無理やり見せる。映画が終わる頃には、たぶん、友人は憔悴し切り、あなたへの信頼と友情には幾分か亀裂が入っている。たぶん。

では違うパターンをもうひとつ。美術館巡りが好きな友人に「最近美術館も閉まってるね。この『バリー・リンドン』って作品、気休めかもしれないけれど見てみて」と言ったら、あなたはその友人にとこれからも円満な関係を築ける。たぶん。

何が言いたいかというと、この映画、びっくりするほどストーリーが淡々としている……。

ぶっちゃけ、話は全く面白くない! だけど、究極の映像美、まるで西洋画のような作品なのだ。むしろこの映像を強調するためにストーリーも役者の演技も敢えて目立たなくしていると思われるほど。なんと言っても監督はあの『シャイニング』『時計じかけのオレンジ』を作った鬼才、スタンリー・キューブリック。

当時の再現にこだわった彼はライトを一切使わず、蝋燭の炎の明かりだけで撮影、そしてそのために世界一明るいレンズをあのNASAから調達。作品は見事に1976年のアカデミー賞で『カッコーの巣の上で』や『ジョーズ』など錚々たるメンツが連なる中、美術賞、撮影賞、衣装デザイン賞を勝ち取った。しかし、彼の映像に凝り、その分ストーリーや役者の演技を地味に描いていくスタイルは大衆にはウケず、興行成績は振るわず。そんなわけで膨大な撮影費用を賄い、「確実に稼げる」作品を制作する必要ができたキューブリック。結果として、収入が見込める大衆にウケやすいホラー映画を作る事になり、完成した作品が『シャイニング』というわけである。この『バリー・リンドン』、実は『シャイニング』のきっかけだったりするのだ。

IMDbより

さあ、あなたは何をもってこの映画を観るか。絵画だと思い込む? キューブリックのエピソードを踏まえた上で観る? 前提条件で映画の面白さが変わるところが面白い。

『バリー・リンドン』はどういう映画?

舞台は18世紀、ヨーロッパ。時代を席巻するハプスブルク=オーストリア帝国とそれに台頭してくるプロイセン。イギリスとフランスの古くから存在していた確執は繰り返される戦争により更に顕在化。。そんな時代、イギリスの隣の島国、アイルランドで農家の息子、バリー・リンドンは淡い恋心を抱いている女性の婚約者に決闘を挑む。相手が死んだという嘘に騙されたバリーは村を追われ、放浪の旅に出る。旅の途中、追い剥ぎに遭ったり、戦争に加わったり、プロイセンのスパイになったり……。1人の平凡な男の人生の栄光と衰退を巨匠スタンリー・キューブリックがこだわりにこだわった映像美で描いた作品。

欲望が止まらない!「第二次百年戦争」

17、18世紀のヨーロッパ諸国関係史の授業を受けた日の夜に自分なりの復習をして頭がパニックになる。起こった戦争を順番に年号と場所、講和条約を付箋紙にまとめて並べているうちに「いやいや、待て待て待て。いくらなんでも戦争しすぎやろ!」とツッコミたくなる。しかし、どうやらこれが史実というやつ。詳しく調べてみると彼らは100年かそこらで(私が調べた受験世界史で出る規模のものだけでも)14もの戦争をしていたらしい。14。しがない21世紀の日本人からすると気が遠くなる数字だ。その中には「ジェンキンスの耳戦争」なんていうトリッキーな名前の戦争まであって、彼らの戦争に対する神経に加えてネーミングセンスまで疑ってしまう始末だ。

IMDbより

第二次百年戦争って?

17世紀、18世紀の英仏の争いは、今で言うと、インスタグラマーたちのでフォロワーを獲得争いに似ている(?)のかもしれない。

クラスでカリスマインスタグラマーで読者モデルのイギリスちゃんと芸能事務所にスカウトされたフランスちゃん。2人は学校の外でも争っていたが、その上、今まで鳴りを潜めていたプロイセンちゃんやオーストリアちゃんまでクラス内で戦争を始めた。もう目もあてられない状況なのが想像できるだろうか。

では、なぜそもそも彼らはこんなに戦争をするのか。第二次百年戦争は主に英仏の植民地奪い合い合戦+ヨーロッパ諸国の覇権争いだ。栄華を誇っていたオーストリア=ハプスブルク帝国、そこからプロイセンが台頭してきたのもこの頃。彼らは、ヨーロッパ本土の覇権を巡り争う。もちろん、ヨーロッパ大陸で全ての戦争が起こっていたわけではなく、プラス植民地でも戦っている。今なら、教室内での争いを超えて近所の公園でも乱闘騒ぎと行ったところだろうか、迷惑甚だしいこと極まりない。それでも、やはりたくさんの富と自国の製品をうる市場、そして現地人を引き連れている国が強い。現代もSNSでフォロワー数争いや、ビジネス利用は健在なわけで、人間の本質は変わっていないようだ。

永遠のライバル「イギリスVSフランス」

世界史を学ぶ上でこのイギリスとフランスの対立軸の理解を避けることはできない。今でも時々テレビ番組なんかで「イギリスVSフランス!お互いへのぶっちゃけインタビュー特集!」みたいなものを目にすることもある。普段何気なく伝わってくるヨーロッパ二大国家の「永遠のライバル感」は歴史をみると理由がわかる。

この対立の始まりは今からおよそ900年前に遡る。その頃から二国は海を渡した領土争いを始め、あのジャンヌ・ダルクで有名な百年戦争で対立は決定的に。その覇権争いは第二次百年戦争を跨ぎ、和解したのはたった116年前のことである。逆に考えると、800年もの間争った歴史を持ちながらガチゴチの戦争を起こさない今の彼らはすごいと言えるかもしれない。

実はこの対立軸は世界史を学ぶ上でとても便利である。基本、片方が何かに関わると、もう片方がいちゃもんをつけてきたり、喧嘩を売ってくる。さらに他の誰かが戦っているとどっちかが片方に味方し、もう片方が相手に味方するのである。その典型が『バリー・リンドン』にも出てきた「七年戦争」というわけだ。

IMDbより

『バリー・リンドン』で簡易化!
当時のバトル相関図!

という理由から、当時のヨーロッパはまるで現代の若者のSNS戦争のような状態。受験生にとっては「今、誰が誰と戦っているのか」つまりはSNS上のトレンドを整理するような物であるわけで心底面倒くさい。これを『バリー・リンドン』をみることで簡易化するのが(前置きは長くなったが)本来の目的だ。

バリー、アイルランドを旅立つ

長いお話の始まり、バリーの淡い初恋はアイルランドにて。実はこのアイルランドという国、世界史において甘くみてはならない。「イギリスの喉に刺さった刺」と呼ばれるこの島国はイギリスに長く虐げられた歴史をもつ。この記事でアイルランド史の詳細は触れないが、世界史で周りと差をつけたいなら学習は必ず必要な部分である。そんなイギリスと密な関係をもつアイルランドで生まれたバリーなので「イギリスサイド」の人間であると認識しよう。

一文無しからの軍隊へ
〜外交革命と七年戦争

旅立つ折に、母からもらった金を全て追い剥ぎに奪われ、一文無しになったバリー。仕方なくイギリス軍に入隊する。軍隊に入隊したバリーが出向いた戦争。それが七年戦争だ。 17・18世紀の相関図は世界史における最難関ポイント。

この辺りの歴史を整理して簡単に説明しよう。

主軸:オーストリアvsプロイセン

順番:オーストリア継承戦争→外交革命→七年戦争

原因①:ハプスブルク家のマリア=テレジアのオーストリア継承にプロイセンがいちゃもん、英仏が乗じる→オーストリア継承戦争(オーストリア・英VS仏・プロイセン)

原因②:負けて悔しいオーストリア、ルイ15世の愛人で一番の権力者であるポンパドゥール夫人を介してフランスと同盟を結ぶ→外交革命

原因③:180度外交政策を変えてまた戦争→七年戦争(オーストリア・仏VS英・プロイセン)

ざっとまとめるとこんな感じだが、王様の愛人が一番権力をもっているフランス、頭おかしいでしょ。そりゃ革命も起こしたくなるわ!と納得したところで。実はこの王妃マリア=テレジアはあのマリーアントワネットの母。彼女は娘であるマリーをフランスのルイ16世に嫁入りさせると考えたら、外交革命の裏付けにもなる。こうしていろんな方面から切り込むのがポイント。

軍隊を脱走、
プロイセンのスパイに

話をバリー・リンドンに戻そう。キューブリックによる七年戦争のリアルな再現をみていたらいきなりバリーは軍隊から脱走する。彼はどうやら中立のオランダを通り、国に帰ろうとしたようだが、甘かった。プロイセンの将軍に嘘がばれ、スパイにさせられてしまう。ここで出会ったのがオーストリア側ならバリーはすぐに殺されていただろう。イギリスが七年戦争時点ではプロイセンと組んでたから殺されなかった。そしてバリーはオーストリアサイドと思われるバリバリへのスパイになるわけだから……。

あれ、そんなこと考えてるうちにもしかして自然とこのフクザツな内容が整理できちゃってない!?

IMDbより

教科書の文字を
ビジュアル化する

『バリー・リンドン』を歴史的に解説すると、知識が得られる内容は前半のパートに多い分、その後は各々18世紀イギリスでの緻密に再現された豪勢な貴族生活の美しさや盛者必衰の理を楽しんでもらいたい。

 話は変わるが、今日は最後にもう一つ私の思う「世界史×映画」のメリットを提案したい。それは教科書の文字を直に(もちろん、監督一人一人個性や演出の関係で史実と変わる表現があるものの)映像としてみることができるという点だ。もちろん知識が得られるのは最高だけど、映画を観ることで「この時代の貴族はこうして生活していたんだ」や「この当時の戦争ってこういう雰囲気なんだ」などというようにビジュアルが脳に焼き付く。そのような点で観ると超完璧主義者のキューブリックがこだわりまくった『バリー・リンドン』は最強の教材なのだ。だって蝋燭の炎の明かりで撮影するレベルなのだから。

解説『バリー・リンドン』(1975)

監督:
スタンリー・キューブリック

出演:
ライアン・オニール、マリサ・べレンスン、ハーディ・クリューガー、パトリック・マギー

『2001年宇宙の旅』や『シャイニング』で鬼才と知られるスタンリー・キュブリックがウィリアム・メイクピース・サッカレー(1811〜1863)の小説『The Luck of Barry Lyndon』を原作に描いた歴史超大作。出演は『ペーパームーン』などで知られるライアン・オニールや『シャイニング』にも出演のパトリック・マギー。その映像の徹底的なこだわりからアカデミー賞の撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、歌曲賞を受賞した。しかし、映画の長さとストーリーが一般に退屈と感じられた分、興行成績は思わしくなく、キューブリックがより多くの収入が見込めるホラー映画を当時トップスターであったジャック・ニコルソンを起用して『シャイニング』を制作する引き金となった。

 文・Minami
 絵・miharu kobayashi (@386_drawing)
編集・川合裕之(フラスコ飯店 店主)

連載:映画で学ぶ世界史
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第1回:ジャン・バルジャンの目を通して学ぶ「フランス革命」|『レ・ミゼラブル』

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