I’m back. Omatase. 

小心者カプセルホテル講座 ~浴場はダンケルク~

かぽーん。いいよね、銭湯。サウナも。

泊まりの仕事のとき、僕は大抵はカプセルホテルを使います。完全夜型の僕なんて、どうせ宿をとっても寝れないんだし、それならいっそお風呂にお金を使おう。中途半端なビジネスホテルの宿なんかよりよっぽど豪華なお風呂にはいれる。しかも安い。そういう理屈です。

しかしながら、僕みたいな自意識過剰な小心者にはカプセルホテルの利用ですら、ある種の死闘なのです。

そう、それはさながらダンケルクの戦いのように……。

1hour:大浴場(最上階)

銭湯を銭湯たらしめている要素とは、一体なんだろうか。それは天井の高さなのかもしれない。高さゆえの解放感。そこに湯気の靄がかかることでエキゾチックは倍増する。持て余した空間の中で、エコーするように泳ぐ僕たちの仕草。

それとも、裸の人間が湯に集う、気の抜けた無防備さだろうか。でも今日みたいに貸し切り状態なのも勿論気分がいい。平日の早朝は、やっぱり誰もいないのです。

露天の外気浴に見切りをつけて “中くらいの熱さの所” に入る。いやはや、今日はかなり疲れた。仕事で偉い人に会ったので、それだけで心がすり減る。電車も阿呆ほど混んでたし。もう早く寝たい。いや実際に寝ないと持たない。裸眼の視力をなんとかみなぎらせて、靄の向こうにある壁掛け時計を睨む。

もう朝の4時だ。チェックアウトは10時。最低でも3時間は寝たい。

そこから逆算してみる。あがったら身支度をしないといけないし、そのあとの “まったり” も欠かせない。煙草も吸いたい。もちろん知らない場所の糊の効いたシーツですぐに寝付けるはずもないから、そのロスタイムも考えないといけない。ついでに言うと僕は男のくせに髪の毛が長くて、優に鎖骨まで届くロン毛野郎なわけです。そんな髪の毛を、備え付けの頼りないドライヤーで乾かすのにもまた時間がかかる。

5時にはお風呂を出ないといけない。あと1時間でここから脱出しないといけない。

このように結論を下したのはついさっきのはずなのに、気付けばもうその時刻が迫ってきている。いやいや、さっき入ったばっかりじゃん。もうちょっとお湯に浸かりたいんですけれど……。せっかく来たんだし、なんたって貸し切りだし。もう身体が動かないよ。 でも。

3 hours:カプセル(6F 男性専用)

早くあがらなきゃ。なにもその理由は睡眠だけじゃない。もうずっとカプセルルームに放置された手荷物。特にiPhone。こいつが何より心配なのです。

気兼ねなく使えるコンセントがあるのはカプセルの寝室だけ。iPhoneは身体を休めながらじっと僕の帰還を待ってくれています。

旅先、つまり慣れない土地で歩くのにiPhone は必需品。バッテリーがないことには始まりません。船があっても潮が引いていては航海できないのと一緒。しっかりと充電しておかしないことには明日からの仕事にも支障が出ますからね。

閑話休題。とはいえ、ご存じの通りこのカプセルは「パーソナルスペース」ではあるものの、「施錠できる個室」ではないのです。万が一でも(めったにそんなことはないだろうけれど)盗難にでも遭ったらどうしよう。あんなボロボロのiPhone だって中古で5000円や6000円で売れちゃうのだから可能性はゼロではない。

とかく元来寝る場所なんだから、人の目だってほとんどない。ほら、今だって誰もいない。この数十分ずっとそうでしたから。みんなどこが誰の部屋だなんてわからない。みんな今晩限りの宿泊客。だから他の人のカプセルの荷物だって、平然と盗ってしまえば悪いことをしている風には見えない。


そんな物騒な話じゃなくても、電話が鳴っちゃったりする可能性だってあるわけで。マナーモードにしたっけ?そうだったとして、バイブだけでも十分うるさいですよね?

大丈夫か。大丈夫だよね? 大丈夫? 明るすぎるカプセル内部で狐疑逡巡。ええいと思い切ってiPhone を枕の下に隠して外に出る。それ以外の手荷物をまとめて、大浴場へと向かったのでした。

1day: ロッカー(1F 受付)

僕と離れ離れになってしまうのは携帯電話だけじゃありません。ロッカーの中の大きな荷物。これもちょっと心配。もとより遠出した際の宿として利用しているので、パソコン、カメラ、お財布からコップまで大抵の荷物が入っています。

温度とか湿気とか大丈夫かな?まさかこんなのでカメラ壊れたりしないよね?

カメラ、とりにいこうかな。いや待て、もし救出するとなると、今度はこっちのカプセルの警備が手薄になる。あと5回に1回くらいの確率でロッカーのカギを無くす。大抵は脱いだジーンズに入っていたままだった、とか別の鍵と交換だった、とかそんな平和なオチです。でも失くしたときは毎度毎度この世の終わりのように青ざめてアタフタしてしまいます。

そうや、忘れてたわ。カツサンドや。

行きの新大阪で買ったカツサンドの最後の2切れ。食べ残してバッグに押し込んだままだった。もう8月ですっかり夏だけど、このまま置いておいても明日あれ食べれるのかな?

Endroll

ぬるくて、貧乏くさい。

さっき買ったとはずの缶コーヒーはもう冷めきっている。気付けばもう静岡。ぼうっとしている間に350kmも移動したらしい。

今日もまた気苦労の多い一日だった。知らない住宅街に迷い込んだのにスマホのGoogle Mapsは頑なに僕が居るはずもない心斎橋の街を指し示しているし、カプセルにヘアゴムを置いてきてしまった。挙句、コンビニを3件ハシゴしても全く見つからない。少し寝坊してパッキングをやり直す時間がなかったので、バッグの中はゴチャゴチャで外からみてもいびつな形をしている。仕事は悪くなかったが、知らない街の地下鉄はやっぱり疲れる。

思い返して良かったのは昨日の大浴場。 “中くらいの熱さの所” は快適だったなあ。「遠出した後に実感するのは、やっぱり家が一番だ」という意見に僕も異論はないけれど、お風呂ばっかりはサウナ付きの大浴場が一番気持ちいい。

心配していたカツサンドは別に食べられたけど、硬くてもう美味しくはなかった。

解説『ダンケルク』(2017)

監督:クリストファー・ノーラン

出演:フィン・ホワイトヘッド, トム・グリン=カーニー, ジャック・ロウデン, ハリー・スタイルズ, アナイリン・バーナード, ジェームズ・ダーシー, バリー・コーガン, ケネス・ブラナー, キリアン・マーフィー, マーク・ライランス, トム・ハーディ ほか

第二次世界大戦中の「ダンケルクの戦い」を題材としたサスペンスアクション。

陸・海・空それぞれ3つの空間で起こる別々の闘いを描きます。ポイントは、それぞれの時間軸の長さ。陸の1week, 海の1day, 空の1hourが、三方向からクロスオーバーして最期の瞬間を共有するのです。

監督のクリストファー・ノーランといえば、病的なほど昔ながらの製作手法で知られるクリエイター。海外ロケは当たり前。『ダークナイト』では実際に病院を爆破したし、『インターステラー』では60万坪以上の広大なトウモロコシ畑を自分でつくっちゃいました。

当然、『ダンケルク』でもそのノーラン節は健在で、リアルさを徹底したロケーションでついうっかり当時世界で4台しかないIMAXカメラをうっかり水没させちゃう、というおちゃめエピソードも。これ「本当に」撮ったの?という視点で鑑賞するのも乙です。

 文・川合裕之
編集・和島咲藍

▷関連記事

きのこ帝国とベイビー・ドライバーと私 白いイヤホンで音楽を聴く日常は、いつか過去の文化になる。

最近の投稿

川合 裕之

95年生のライター/ 編集者。長髪を伸ばさしてもらってます。 フラスコ飯店では店主(編集長)をしています。

Twitter あります