I’m back. Omatase. 

耳が覚えているあの映画 #6『ストレンジャー・シングス』

あれ?『E.T.』っぽい!

いや!次は『スター・ウォーズ』だ!

ここで『スタンド・バイ・ミー』か〜!

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016〜)を観ているとたくさんの80年代映画のパロディが隠れていることに気が付く。

※『E.T.』(1982)『スター・ウォーズシリーズ』(1977〜)、『スタンド・バイ・ミー』(1986)

NetflixオリジナルSFホラードラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(以下『ストレンジャー・シングス』)はカルト的な人気を誇りながらも、社会現象を巻き起こすほどの大ヒットとなったシリーズだ。

IMdbより

その物語自体も1980年代のアメリカが舞台となっていて、劇中ではレトロな小道具や衣装などが活躍する。また、当時のヒット曲などを挿入歌に採用していてリアルタイムで80年代を過ごしたわけでわけではないぼくもその時代の生活やノスタルジーな田舎の街並みからどこか懐かしさを感じる。そして、同時にそんな80sカルチャーたちに新しさを見出す体験ができる作品だ。

もちろんストーリーや映像、シナリオも超絶クオリティで一度ハマるとエピソードを進める手が止められない。

シーズン3で『ネバーエンディングストーリー』(1984)のテーマ曲が挿入歌だけでなくストーリーに絡んできた時にはそれまでの80sパロディがパロディを超えた瞬間を目撃したような、不思議な感覚を覚えた。

しかし、今回紹介したいのは劇中で使用された80年代のヒット曲でもなければトランシーバーのようなガジェットでもなく、劇中に忍ばされた数々の映画のパロディのような当時の懐かしさを感じるものでもない。

IMdbより

耳に残るあの電子音。高揚するシーケンストラックの波。ぼくは『ストレンジャー・シングス』を観てアナログ・シンセサイザーのサウンドにハマったのだ!

80年代にミュージシャンたちがこぞって手を出した楽器、アナログ・シンセサイザー。そのサウンドはやっぱり80sサウンドの代表であり、煌びやかなあのレトロウェイブな音色を聴くと80年代映画のパロディを見つけた時と同じようになぜか懐かしさを感じたり、新しさを見出すことができる。

『ストレンジャー・シングス』のために書き下ろされた劇中で流れる楽曲たちを聴きながら、アナログ・シンセサイザーという楽器が一体どんな特徴を持った楽器なのかを見ていこう。そうすることで、なぜこのホラー作品にカイル・ディクソン アンド マイケル・スタインが起用されたのか、そして『ストレンジャー・シングス』が懐かしくもあり、新しくて刺激的な作品になった理由が、パロディやヒット曲の起用だけではないということを紹介したい!

シンセサイザーは “めちゃくちゃイケててクールな楽器” であることを『ストレンジャー・シングス』からぼくは教わったんだ!

聴くものの感性を引き出すアナログシンセのサウンド

まずは『ストレンジャー・シングス』といえばこの曲! カイル・ディクソン アンド マイケル・スタインの『Stranger Things』を聴いてみよう!

>spotify で実際に聴きながら読んでみてね!<

エピソードの始まりを告げる際のクレジットとともに流れ始めるメインテーマ曲である。心臓の鼓動のようなサウンドと、怪しく音色を変化させながら繰り返されるシーケンストラック。毎エピソードの冒頭部分で心を掴まれたその次の瞬間にカットインしてくるメインタイトル。

それと共に流れ始めるこの楽曲は、新キャラクターの登場や子どもたちの冒険に期待を膨らませたり、新たな事件への緊張や不安を煽ったりとあらゆる演出をになっている一曲だ!まさにこのドラマシリーズのメインテーマ曲。『Stranger Things』という楽曲タイトルがついていることに納得する。

IMdbより

OPクレジット直前の冒頭パートのシナリオがホラー要素の多い展開だった場合はその鼓動の音やシンセのコードが「怖ぇ〜!この曲不気味でなんだか怖い曲〜」と感じる。しかし冒頭パートが子どもたちの冒険への期待が描かれるようなジュブナイル要素の多い展開の場合は「なんだか子どもの頃の遠足の前の日みたいにワクワクする!ドキドキする!」といったような鼓動の音に聴こえてくる。全エピソードに添えられるこのOPクレジットはその全エピソードごとに印象が変わっていくという素晴らしいサウンドメイクとなっている。

『ストレンジャー・シングス』のサウンドトラックやプレイリストを開いてみるとわかるのだが、この作品には挿入歌として80sのヒット曲を多数起用する他にも、この『Stranger Things』という楽曲のように作品のために書き下ろされた音源が多数存在する。

このドラマのための書き下ろし音源たちの全てを手がけているのは先ほどから度々登場しているカイル・ディクソン アンド マイケル・スタイン(Kyle Dixon & Michael Stein)という音楽家である。

アナログ・シンセサイザーを操る二人組 カイル・ディクソン アンド マイケル・スタイン

カイル・ディクソン アンド マイケル・スタインはテキサス州オースティン出身の4人のアナログ・シンセサイザー奏者からなるバンド、SURVIVE(S U R V I V Eと表記されることが多い)のメンバーである。

IMdbより

もともとSURVIVEのファンであった『ストレンジャー・シングス』の監督ザ・ダファー・ブラザーズは『ストレンジャー・シングス』のコンセプトをNetflixに売り込む際、彼らの音楽をトレイラーに使用したことから、このサウンドトラックは実現した。

そう!この カイル・ディクソン アンド マイケル・スタインが楽曲制作のために使用する楽器こそがアナログ・シンセサイザーなのだ!

目次
無限のサウンドを作り出す楽器アナログ・シンセサイザー
音をsynthesiz(合成)する楽器それがシンセサイザー
最高にイケてる便利な楽器シンセサイザー

無限のサウンドを作り出す楽器アナログ・シンセサイザー

アナログ・シンセサイザーが一体どんな楽器なのか!ということは一旦置いておいて、もう少しカイル・ディクソン アンド マイケル・スタインの書き下ろした作品たちを聴いてみよう!

サウンドトラックの二曲目に収録されている『Kids』はシーズン1のエピソード1『ウィル・バイヤーズの失踪』の最初に流れる。つまり先ほど紹介したOPクレジットの『Stranger Things』よりも先に流れるい楽曲だ。主人公の子どもたちが自転車に乗って家路についていくシーン。どこか懐かしく、そして高揚感のあるそのサウンドはこのサウンドトラックの中でも珍しく、楽曲にホラー要素が少ない。

>spotify で実際に聴きながら読んでみてね!<

後半には高揚感のあるメジャースケールが細かく奏でられる。このまるで人力では不可能な演奏はシーケンストラックと呼ばれるいわゆる自動演奏を駆使して奏でられている。

そんな高揚感とノスタルジーを兼ね備えた楽曲『Kids』に打って変わって、カイル・ディクソン アンド マイケル・スタインが得意とするホラー楽曲の中でもぼくの大好きな一曲を紹介させてもらう!

裏の世界アップサイドダウンの住人、デモゴルゴンが迫ってくる際などに不穏に流れ始めるあのサウンド。

>spotify で実際に聴きながら読んでみてね!<

この楽曲のタイトルは『Lights Out』だ。そう、まさに劇中の演出そのままのタイトルである。裏の世界の住人、デモゴルゴンが近くに迫っていると部屋の明かりが突然消える。その瞬間に流れ始める楽曲だ。視界が遮断されるという不安。暗闇への恐怖。そして、ヤツが近づいているという緊張感。それら全ての演出を引き立てる一曲である。

思い出して欲しい。自分の部屋の明かりが突然なんの前触れもなく消えて真っ暗になった瞬間の鼓動の動きを。心臓が急激に締めつけらるようにドキッとするようなあの感覚とその後の緊張感をここまで忠実に音によって再現している。

IMdbより

そしてここで注目して欲しいのはこの『Lights Out』の最初の打撃音だ。鉄板を棒で叩いたような、ドラム缶に硬い石をぶつけたような、そんな打撃音が聴こえる。この打撃音に耳を傾けるとその音自体がシンセサイザーのフィルターによって少しずつ変化していることがわかる。つまりこの打撃音は鉄板を某で叩いたような、そういった打撃音をサンプリングした音ではないとわかる。この音もまたシンセサイザーによって作り出されたサウンドなのだ!

シンセサイザーはもっとメロディを奏でたり、電子的な、ゲームのサウンドなんかを奏でているイメージが強いからこの音をシンセサイザーで出していると言われるとなんだか不思議な気持ちになるけれど、これがシンセのすごいところ。こんな打撃音やパーカッシブなサウンドも作り出すことができるのだ。例えば、初代ゲームボーイや初代ファミコンの音源なんかを想像してみて欲しい。あの有名な初代スーパーマリオの楽曲にパーカッシブな音が使われていることがわかるだろうか。あれはシンセサイザーと同じ様な原理で発信されるノイズ音源を短く等間隔で発信することで「メロディ」ではなく「ビート」のサウンドを作り出しているのだ。昔のテレビの砂嵐の「ザーーーー」というノイズ音を細かく切り刻んで使っているようなもの。

つまり、シンセサイザーから発せられるサウンドは煌びやかなメロディやコードだけでなく効果音や使い方次第ではビートを作り出すこともできるのだ!

カイル・ディクソン アンド マイケル・スタインの多くの楽曲の特徴はアナログ・シンセサイザーのみを使って作られているということ。先ほど少し触れたYellow Magic Orchestra(YMO)などにみられるシンセサイザーを駆使したバンドでは、あくまで駆使したバンドであり、そこには天才ドラマー高橋幸宏が存在する。つまり楽曲にドラムセットを使ってビートを乗せることでサウンドだけでなく “ノリ” を生み出している。

しかしこのサウンドトラックにはドラムの音だけでなく、ビートマシンやサンプラーのような機材を使ったドラムの音が一切入っていない。

先ほど紹介した『Lights Out』の打撃音やバスドラムのような音さえもアナログ・シンセサイザーのみで奏でている。

IMdbより

つまり、アナログ・シンセサイザーは「万能ではないけれど無限のサウンドを作り出すための楽器」であると言える。

それがまた『ストレンジャー・シングス』という作品の世界の不気味さにとてもマッチしているのだ!

音をsynthesiz(合成)する楽器それがシンセサイザー

じゃあ、結局シンセサイザーって一体なんなの?

ピアノっぽいのを弾いている人の楽器のこと?キーボードと何が違うの?

厳密に言えばあれはシンセサイザーの中の一つの種類であり、その他にもたくさんの形状のものが存在する。

例えば、日本を代表するシンセサイザーを駆使したテクノバンドYellow Magic Orchestra(YMO)。彼らの音楽を支えた大型モジュラー・シンセサイザー「The Moog Synthesizer IIIc」はその見た目から通称 “タンス” と呼ばれている。はっきり言って楽器の見た目をしていない。どこをどう触ればどんな音が鳴るのか皆目検討がつかない。このThe Moog Synthesizer IIIcというシンセサイザーも基本的には自動演奏機能であるシーケンストラックを使って演奏されることが多い。

IMdbより

シンセサイザーの英語スペルは「synthesizer」と書くが、まずはこれを辞書等で調べてみよう。辞書によって多少異なると思うが、おそらく「合成する人」とか「総合する人」とかの意味が出てくる。つまりシンセサイザーは「合成する楽器」なのである!

何を?

もちろん「音を合成する楽器」である!

ここではその原理であるVCOやVCF、VCAといった楽器の仕組みを詳しく解説することは避けておく。大変ややこしいし、簡単に説明するのがとても難しい。音楽の話とは全く違った機材の話になってしまうので、気になる方は調べてみてね!

なぜシンセサイザーが他の楽器と違って一体どんな楽器なのか理解されにくいのかというと、その目的が「音を奏でる」以前に「音を作る」ということに特化している楽器だからだ。

シンセサイザーを「奏でる」際には先ほど紹介したシーケンストラック、つまり自動演奏に任せることも許されるし、キーボードとつないで人力で演奏してもいいのだ。

ギターやピアノ、トランペットなどの管楽器など「楽器」の「奏者」に求められる能力は大体がそのテクニックであり、そのテクニックを手に入れるために演奏者たちは反復練習を行っている。しかし、シンセサイザー奏者に最も求められるのは「音を作る」という能力なのだ!

数えきれないほど販売されているあらゆる機材たちをどれだけ理解して把握して鳴らすことができるか。そしてそのサウンドたちをどんな風に合成して使いこなすことができるのか。そういったテクニックが要求される楽器。それがシンセサイザーだったのだ!

IMdbより

『ストレンジャー・シングス』のサウンドトラックを手掛けたカイル・ディクソン アンド マイケル・スタイン(Kyle Dixon & Michael Stein)はもちろんシンセサイザーの演奏テクニックも素晴らしい超一流のミュージシャンでありながら、そのサウンドメイクに注目することで楽しみ方の幅が広がる楽曲を多く作っている。

シンセサイザーから奏でられるサウンドは言葉や理論で説明することは難しい。ギターやピアノのように「速く弾けてすごい!」とか「絶妙なリズム感で気持ちいい」などの評価よりもシンセサイザーは「なんかこの音好き!」といったような直感的な楽しみを提供してくれる楽器である。

最高にイケてる便利な楽器シンセサイザー

『ストレンジャー・シングス』に楽曲を書き下ろしたカイル・ディクソン アンド マイケル・スタイン(Kyle Dixon & Michael Stein)は80年代に生み出された最高にイケてて便利な楽器だけを使うことにより聴感的にそして直感的に80年代の雰囲気を醸し出しながら作品を彩っていたのだった!

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レトロな小道具や衣装、80年代映画のパロディだけが『ストレンジャー・シングス』のあの懐かしさを醸し出している訳ではないのだ!そう!80年代、当時大流行していたシンセサイザーの音色によってBGMを書き下ろすことでその懐かしさを引き立てているといえる。

『ストレンジャー・シングス』は当時流行っていた音楽やファッションを採用することで「思い出」や「時代背景」を映し出すだけでなく、新たに書き下ろされた楽曲の音にもその懐かしさやレトロウェイブな雰囲気を宿している作品だったのだ!

そして、リアルタイムで80年代を生きたわけではない世代の若者たちにシンセサイザーという楽器の素晴らしさを作品を通して間接的に伝えている素晴らしいサウンドトラックであり、素晴らしいドラマシリーズである。

シーズン4の配信に期待大である!

 文・金城昌秀
編集・川合裕之

映画音楽をじっくり考えるこの連載はまだまだ続きます!

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解説『ストレンジャー・シングス』(2016)

IMdbより

原案:ザ・ダファー・ブラザーズ
出演:ウィノナ・ライダー,デヴィッド・ハーバー,フィン・ヴォルフハルト,ミリー・ボビー・ブラウン,ゲイテン・マタラッツォ,ケイレブ・マクラフリン,ナタリア・ダイアー,チャーリー・ヒートン,カーラ・ブオノ,マシュー・モディーン,ノア・シュナップ,セイディー・シンク,ジョー・キーリー,デイカー・モンゴメリー,ショーン・アスティン,ポール・ライザー,マヤ・ホーク

2016年にNETFLIXで配信が開始されるや瞬く間に大ヒット。2017年10月にハロウィンに合わせて待望のシーズン2が配信開始になると、超人気番組「ウォーキング・デッド」のプレミアをも抑えて、テレビもストリーミング配信も合わせたドラマシリーズの総合視聴者数1位に輝いたのが「ストレンジャー・シングス 未知の世界」。しかも、36万人がシーズン2開始から24時間以内に全9話をイッキ見したというほど、中毒性の高い、先が気になるストーリー展開だ。

今回紹介した音楽面ではカイル・ディクソン アンド マイケル・スタイン(Kyle Dixon & Michael Stein)がスコアを手がけた同作のシーズン1は、第59回グラミー賞で「最優秀スコア・サウンドトラック・アルバム(映像作品)」部門にノミネートされたほか、第69回エミー賞では音楽賞「主題歌部門」、音響賞、キャスティング賞、メインタイトルデザイン賞、編集賞と5部門を受賞し、音楽面でも大きな注目を集めた。

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金城昌秀

ロックバンド「愛はズボーン」でGt.Voを担当。 様々なアーティストのMV監督や動画編集、グッズやCDジャケットといったアートワークも手がける。

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