Te wo Arai mashou.

恥じるな、見ろ。
|映画『燃えよデブゴン Tokyo Mission』

(C)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

月並みな感想だが、とても面白かった。一介のライターとして、まして媒体の編集長として恥ずべき語彙力ですが、それでもまずはこう書かせてください。面白え~~。

上映後、たまらず劇場の売店に走りパンフレットを買い求めます。そうだ、ついでに最近面白かった映画のパンフもまとめて手に入れておこう。

「すみません、パンフレットお願いします。『私をくいとめて』と、あと『新感染 ファイナル・エクスプレス』です。あと、そこの、隣にあるやつもひとつ」

「どちらになりますか?」

「え、あ、その新感染の隣の……」

「えっとーー?」

「あの、『燃えよデブゴン Tokyo Mission』 です……」

すごく面白かったんですよ。なんなら生涯のベストムービーに、少なくとも2021年の個人的ベストには必ずランクインするレベルの映画です。

けれども、タイトルが恥ずかしくてなかなか言い出せませんでした。

いいや、待てよ。

このタイトルが原因で敬遠している人がいるかもしれない。このタイトルを口に出すのが億劫で「面白かった」と薦めるのをやめた誰かがいるかもしれません。

じゃあ、誰がこの映画のことを書くのよ。

前置きが長くなりましたが、そういうことです。

***
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3分間待ってくれ

この映画の魅力を伝えましょうーーということで筆者からのお願い。3分間待ってくれ。逆ムスカです。

正義感の塊のような男、フクロン刑事は、とある事件で大失敗して証拠保管室へ異動。左遷です。現場で縦横無尽に大暴れしてカンフーで悪漢を倒すーーのはもう昔の話。地下でデスクワークを強いられる日々。婚約者との不仲も重なりストレスの溜まったフクロンはそれはもう食べる、食べる、食べる。いつしか彼は 120kg を超える巨漢になってしまいます。しかし~~~?

てな内容です。ちょっとまって。いまあなたこの画面を閉じようとしませんでしたか。

お気持ちはわかります。アホみたいな話ですからね。でもって、映画のタイトルは『燃えよデブゴン Tokyo Mission』です。よっぽどのカンフーファンでなければ期待値は低かろう。でもそこがいいんです。これくらいの温度感は緊張せずに楽しめるわけですよ。

ドニー・イェンと谷垣健治が組むことの恐ろしさ

そして注目すべきは映画の座組です。

主演はドニー・イェン。太っている特殊メイクでもうほとんど面影はありませんが、『イップ・マン』シリーズや『ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』でお馴染みですね。

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正直なところ僕も最初は「誰だこのとろサーモン久保田に似た人は。香港では人気なのかな」と思ってました。ああ、そうなんだ、これ実はドニー・イェンなんだね。アクション俳優としてはもちろん、アクション監督として作品を統括することもしばしば。この世界のスターですよ。なるほど、今回はドニー・イェンが動けるデブを演じるわけだ。

ドニー・イェンが主演を務めている時点で本作がいかに信頼できる作品かは伝えられたと思いますが、それだけではありません。

監督は谷垣健治。邦画アクションにおける新たな金字塔である「るろうに剣心」シリーズのアクション監督を務めていたあの人です。「あー、なるほど、 “Tokyo Mission” だから日本人監督なのね」というほど単純な話ではありません。もちろんそれもありますが、彼は香港アクションにおける重要人物であり、ドニー・イェンの信頼も厚い。ドニー・イェンが直接「お前が監督やれ」と指名したほどです。ちなみに広東語もネイティブレベルだそうですよ。

ハチャメチャに倫理観がオワっている上に、拳が強すぎるジャパニーズ・ヤクーザの島倉は丞威が演じます。『孤狼の血』『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』に出演歴のある動きの線の鋭利な俳優です。

そしてさらに、アクション監督には岡田くん(岡田准一)の主演する「SP」の劇場版や「HiGH&LOW」シリーズを手がける大内貴仁を迎えます。

あ、あとコメディ要員として竹中直人が出る。「のだめ」のときに僕たちが目撃した “外国人としての竹中直人のおもろさ” は香港でも通用するらしい。あとなぜだか知らないけどフォーリンラブのバービーも一瞬だけ出てる。なんで?

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ほら、どうでしょう。ちょうどここまで読むのに3分ほどだと思いますが、ワクワクしてきたのではないでしょうか。

正義感の塊のような男、フクロン刑事は、とある事件で大失敗して証拠保管室へ異動。

冒頭に僕が書きましたあらすじの一部です。もうお分かりでしょう。「とある事件で大失敗」の時点で観客からしてみれば失禁してしまうほど刺激的なアクションが繰り広げられるということをーー。カンフーウレションしてしまう作品なのです。

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安心して見れるお約束

さて、ここまでは本作がいかに優れたアクション映画であるかを伝えました。一方でプロットに対しては「アホみたいな話」とくさすような書き方もしてしまいました。ごめんなさい、これは本心ではありません。「アホみたいな話」もとい「アホみたいな展開がありすぎて最高」の映画なのです。

もとより、これこそが80年代カンフーコメディの系譜を引く作品なのです。

「今日だけは絶対に遅れないでね! スタジオで結婚記念の写真を撮るんだからね!」と電話越しに奥さんに怒られている花婿ーーが、すでに観客にはお馴染みのアクション俳優。しかもどうやら刑事役らしく、あろうことか銀行に用事がある。

この時点でほら、「ある」じゃないですか。

きょうプレゼント貰えるんだろうな、ってソワソワする誕生日の朝みたいな高揚感。安心しながら期待して見ることができます。「十中八九この人はこうだろうな」「3000%こいつが黒幕じゃん」「極論、最終的にはドニー・イェンが勝つよね?」

最後のはいくらなんでも暴論過ぎますが、とかくこのような安心感があるからこそ、アクションに集中できるのです。映画の冒頭には【この映画に登場する東京タワーはあくまでもセットです】という身もふたもないネタバレ全開の注意書きが表示されます。まだなんにも知らんけど、絶対に東京タワーで何かあるじゃん……という気しかしませんが、そんな誰に配慮しているのか意味不明の野暮なネタバレさえも跳ね除ける力強さがあるのです。

「ドニー・イェンが太ってたら面白いのでは?」(*注)

「東京タワーを舞台にカンフーで戦ったらウケるな」

「築地でラリったオッサンに、フォークリフトを爆走させてみようや」

いずれにしても思いつくだけなら「アホ」なのですが、そのために特殊メイクを施し、身体の動きを制限するにも関わらず太っているように見せ、東京タワーや新宿のセットを組む。プロフェッショナルの仕事じゃないですか。個人的にはこの事実だけでも涙腺が開きます。重力法則を無視した垂直の涙がモニっと出てくる。

*注:寝具メーカーのCMでドニー・イェンが太った姿を演じたことがこの映画誕生のきっかけ。太ったドニー・イェンと、そうでない普通のドニー・イェンの一人二役の映像である。業界でも話題になり、最終的に本作へと結実した。この時から監督は谷垣健治。既に当時から映画化のための構想があったらしく、それにウォン・ジンが脚本を書き足し、ドニー・イェンがアイディアを出す。最後に二人の脚本家が細かい箇所を整理。最終的には全く違う話ができあがったという。なんでだよ。

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アホな話なのに、硬派で世界中の誰もがマネできない映像がそこにある。それって本当に尊いことだと思いませんか。

(80年代の頃の私が)子供の頃に見たものは、すごいアクションとゆるいコメディいうのが同居して成立しているものでした。そういうのが香港映画の代表的なものだったにも関わらず、ここ数年は香港でもなくなってきて、撮れる人もアクションをやれる人もいなくなっている。やがて滅びゆくジャンルですね。ですので、そのあたりはかなり意識しました。

谷垣健治監督のインタビューより。括弧内筆者加筆。

「やがて滅びゆくジャンル」と自嘲地味に谷垣健治は語りますが、おそらくはある意味での “しょうもなさ” に対する自虐であり、きっと並々ならぬ愛情がそこにあるのではないかと筆者は邪推しています。

> プロジェクトA(吹替版)<

>ポリス・ストーリー/香港国際警察(吹替版)<

そもそも、実は「デブゴン」とはーー

映画のタイトルは『燃えよデブゴン Tokyo Mission』ですからね。よっぽどのカンフーファンでなければ期待値は低かろう。でもそこがいいんです。

僕は記事の頭でこのように書きましたが、しかしその反面、一定の層には「デブゴン……ということは……?」とプラスに作用します。僕たちカンフーファンにとっては。この「デブゴン」という気の抜けた4文字の真意を知れば、この映画のことをもっと好きになれるはず。

魅惑のフレーズ「デブゴン」の元ネタは、『燃えよデブゴン』という1978年にサモ・ハン・キンポー(*注2) が主演を務め制作した映画。ブルース・リーの『燃えよドラゴン』に似せたふざけた邦題に見えるかもしれませんが、(ふざけてはいるものの)本当に『燃えよドラゴン』などの「ドラゴン」シリーズに影響を受けて作られた作品なのです。

デブゴンの方の原題は『肥龍過江』で、『ドラゴンへの道』(1972) は『猛龍過江』と1字違い。ただ名前を借りているだけにあらず、シリーズへ強烈なオマージュを捧げています。

*注2:最近だと「サモ・ハン」というのが業界の正式な名称らしいのですが、「サモハンキンポー」の方が語呂よくないですか? 記憶の中のあの人! という意味を込めて、口になじみのある音で書かせていただきました。

なお、『燃えよデブゴン』をきっかけに、彼が主演する映画の邦題は大抵「デブゴン」がつけられるように。サモ・ハン=デブゴン。「シュワちゃん」みたいなことでしょうか。最近のヒット作だと『イップ・マン 葉問』(=シリーズ2作目)にも出てますよ!

2021年の「Tokyo Mission」は『燃えよデブゴン』のリメイクではなくまったくのオリジナルですが、原題の『肥龍過江』および英題の “ENTER THE FAT DRAGON” は78年のまま。このために大人の権利関係を整備さえしたといいます。70年代・80年代への愛を感じますね。

繰り返しの重複になりますが、「デブゴン」の源流には当然『燃えよドラゴン』のブルース・リーがいるわけで。「Tokyo Mission」はカンフーの脈が通った映画なのです。

『五福星』や『悪漢探偵』のような80年代のアクションコメディのジャンルを意識したということですね。香港映画を代表するジャンルなのに、今はもう途絶えてしまっていますよね。

アクション的には例えば『イップ・マン』はミニマムなアクションのよさ、派手なカースタントや飛行機が爆破するわけでもないですし、風格で魅せるアクションだと思うんですよね。『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』はそれとは真逆の発想で東京タワーやヘリコプターなど、現代アクションのいろんな要素をアクションに取り入れていきました。

谷垣健治監督インタビュー。パンフレットより引用

歴史ある「デブゴン」という存在(作中では「デブゴン」という言葉は出てこないが)を、それを今度はドニー・イェンが演じるわけです。

そうそう、「70年代・80年代のアクションコメディ」と言われて嫌でも忘れられないのがジャッキー・チェンですが、そんなジャッキー的演出も豊富です。新宿歌舞伎町(っぽいどこか)のビルの合間を飛び回って立体的に駆動するドニー・イェンの姿はいかにも「ジャッキー由来」という感じがします。これまでの歴史を踏襲して、先人たちの知恵に経緯を込めて、巨人の肩の上でカンフーしているわけです。その到達点は見上げるほど高く、具体的には東京タワーで死闘を繰り広げたりなどします。蘊蓄はどうあれ、つまるところ結論としては <論理的なエンタメの基礎があるからこそ> しっかり面白い。本当にありがとうございます。

今日も僕はカンフーで泣く

ありがとう。本当にありがとう。このようにカンフーに感謝を捧げ喜びの涙を浮かべながらスクリーンに対峙する。さすると、ベタで見え透いた――もちろん予測可能であることが肝だが――ストーリーラインにも感動してくる。思わずまばたきをするときは、決まって両目が反応するのと同じです。物語はシンプル。しかしカンフーアクションが体感速度を上げてくれる。道は平坦でもエンジンが違うのです。

いつの間にか最終決戦。ピンチ、優勢、またピンチ、でもやっぱり勝利の大団円! そして迎えるハッピーエンド。ヤッターーー! アンド、エンドロールでNGカット集。これこれ、これだよ。「映画が人生にヒントを与えてくれる」なんてのは幻想だ。常から眉間にしわを寄せながら、そんなことを考える僕にとってこれほどバッチリの映画体験はない。映画で何かを学ぼうとするのもいいけど、映画史をちゃんと辿ってみると映画はそんな高尚なもんじゃなかったはず。そうそう、これこれ。これでいいんです。これがいいんです。最高ーーーー!

僕はこの映画を日本の公開初日、つまり2021年の正月に見てきたわけですが、本当に本当におめでたい1月1日でした。なんだったら来年の正月もこれを見ようとすら考えています。

 文・川合裕之
編集・安尾日向

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解説『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』(2021)

タイトル:
肥龍過江(英 Enter the Fat Dragon)

監督:
谷垣健治

脚本:
ウォン・ジン, ルイ・クーナン, ロナルド・チャン

製作:
ドニー・イェン, ウォン・ジン, コニー・ウォン

製作総指揮:
ウォン・ジン, ユー・ドン

出演:
ドニー・イェン, ウォン・ジン, ルイス・チェン
テレサ・モウ, ニキ・チョウ, 竹中直人, 丞威
渡辺哲, バービー

歌舞伎町っぽい街はすべてセットであり、東京タワーのシーンもスタジオ撮影しているというのですから驚きです。あれ、全部作ったの?! アクションばかりに目を奪われますが、美術部もすごい。

物語の着地点も巧妙に配慮されており「痩せてハッピーエンド!」とはならないのが美しいです。

奥さん役のニキ・チョウが綺麗すぎるので、それだけでも万歳。中国テコンドー界の新星(調べるとそうらしい)のチェイニー・リン君のカンフーも痺れる。将来が楽しみですね。もちろん主演のドニー・イェンの演技も素晴らしかったです。カンフーは当然なのですが、地味にコメディ俳優としてもこれ相当すごいですよね。ハンバーグなのに実は栄養バランスも優れている……みたいなさ。ウォン・ジンの役柄が個人的にツボすぎる。なお、カメオ出演したフォーリンラブのバービーは「ドッキリだと思っていた」と語ります。マグロとセックスをする人魚のAVの女優役ですからね。当然っちゃあ当然です。

色んなロケーションで色んな種類のアクションを見ることができます。カンフーアクションの宝箱のような作品です。

「少林サッカーが好き」と言いたい

好きなものを語ることの恐ろしさについて、あるいは『少林サッカー』に対する恋文

好きなものや好きなこと、その他自分の選択を人に語ったり見られたりすることがたいへん苦手だ。だから気を許していない人間に「好きな映画はなんですか」なんて聞かれようものなら風の谷のナウシカのユパ様みたいな格好で窓から飛び出してその場から走り去りたくなる。

「好きな○○はなんですか」が苦手な理由は、主に以下の三つ。

「好きなもの」で相手にセンスを推し量られているような気がするから

「好きなもの」の一部分しか熱を持って語ることができないから

「○○が好きな自分」を演じることがストレスだから

今から、それぞれを順に説明していくわけだけれど、もう二十四にもなろう人間が他人の目を気にして好きな映画の一つや二つを語れないなんて、どうかしていると思う。なので、ぼくはこの文章を「好きなものが語れない」という自分の呪いを解くために書きます。好きな映画に対する愛を、精一杯ぶつけたいのです。

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川合 裕之 Written by:

95年生のライター/ 編集者。長髪を伸ばさしてもらってます。 フラスコ飯店では店主(編集長)をしています。

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