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『ライオン・キング』の不誠実なおもてなし

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なんとなく観れてはしまうけれど、でもなんだろう。これでいいのかな。この映画を今作る意味って、ほとんどなかったのでは。そう首を傾げるばかりです。

クーデターと政権交代

ライオン・キング。新旧問わず、要はこういうお話です。まずはあらすじをおさらししましょう。

~よくわかるライオン・キング~

1 王の暗殺

ライオンの王・ムファサは善政で民を治める人格者。ひるがえって弟であるスカーは貧困と嫉妬に身を蝕まれる日々。辛酸を舐める日々に耐えかね、ついに決起してハイエナと結託。王を暗殺し王位を繰り上がり実権を握ることに成功。当時まだ子どもの王子・シンバもこの事件の渦中でスカーに追放される。

2 軍事政権の誕生

ハイエナを軍隊としたスカー独裁軍事政権の誕生。旧ムファサ派にとっては暗い闇の時代の幕開け。スカーたちのエサの乱獲により、深刻な食糧不足問題に。くわえて乱獲されたエサはスカーたちが独占し、再分配されず。

3 救世主の帰還

スカーが暴政をふるうこと数年。官邸へ青年となったシンバが突如姿を現す。スカー政権に虐げられてきた旧ムファサ派のライオンたちにとってシンバは大きな軍事力であり象徴的リーダーでもあった。

4 クーデター勃発

シンバを迎えた旧ムファサ派、改めシンバ派がスカー政権へ武力行使。クーデターとなる。右も左もない混戦状態に加え、雷に打たれて炎に包まれる官邸。犬も猫もひっくりかえしたような大混乱となるが、紆余曲折ありシンバ派が勝利。シンバ政権の誕生へ。

とまあ、こんな具合です。少々刺激的な表現にはなってしまいましたが、「超実写」なんて謳われるくらいですので、リアリスティックな筆致でご紹介いたしました。

しかしこうして俯瞰すると不誠実で救いのない物語だとは思いませんか。

スクリーンで体感する圧巻の技術力。最初こそ胸が高まりましたが、期待外れだったようです。悪役であるスカーが力強い演説でハイエナを煽動してるところまではまだよかった。特筆すべきは彼の演説。朴訥とした語りが次第に”Be prepared” の力強い独唱へと変わります。高ぶる不満と、ライミング豊かなサウンドバイト。スカーというひとりの邪悪で狡猾なリーダーが有象無象のハイエナの不満を煽りたて結束させる。いまの時代の流れをくんでいると思うし、ミュージカルとしても優れた場面でした。

しかし、この期待は裏切られることになります。ここから1994年公開の原作アニメ映画版と同じ道をたどります。上で述べたあらすじの通り、行われるのは暗殺による政権交代と、クーデターによる政権転覆。

民主的な手順を踏むことなく、トップが入れ替わってゆくのです。これは原作とも同じプロット。「優秀な高い再現度」という表現だってできなくはないが、それならば今これを作る必要はないでしょう。なんたって映画はいつでも見返すことができるのだから。

いま作るのであれば、現代の観客にも納得のゆく作品へと磨き上げる必要があります。結局は最後はライオンが取っ組み合いの相撲をして終わり。これでいいのでしょうか。

疑わしきはシンバが王たる正当性

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僕が問いたいのは、シンバの正当性です。僕は彼の王位継承に大きな疑問を抱えています。

彼の過去を振り返ってみましょう。幼少期に一度スカーに国を追放されたシンバは、お馴染みのご陽気コンビ、ティモンとプンバァに助けられてジャングルで時間を過ごし青年へと成長します。しかしある日突然ふとした拍子に「自分は王位を継承する責任がある」という使命に打たれ、帰還を決意するのです。そしてクライマックスのクーデター劇へと繋がるのです。

いやいやちょっと待ってください。それで納得いくでしょうか。観客の私たちは、そして故郷の民は。彼の王位継承権を担保するものは血統以外に何かありましたでしょうか。王位はそれすなわち政権です。王位だけならいざ知らず、彼が政権を担うべき理由はあったのでしょうか。

君は、何をした?

スカーの暗殺計画にまんまと欺かれ、王である父を救いきれず、あてもなく彷徨い自傷的に砂漠でふて寝してさ。そこで奇跡的にティモンとプンバァに助けられただけではありませんか。

シンバは何もしていない

あいつ、だらだら虫くってただけじゃん。大川隆法みたいなサル(正確にはヒヒ)に先祖の声をきかされて、「そうか!自分は王の息子だ!」じゃないんだよ。ならずもののハイエナを煽動し取りまとめただけスカーの方がまだ政治的手腕があります。地下室へ呼びかけるポピュリズムではあったものの、あの暗殺を除けば以降不法行為はありません。あったのは不道徳のみ。

しかしシンバは何もしていない。親の七光り。見た目が良いだけ。あ、あと歌が上手い。

繰り返す。君は今まで何をした? 君に政権を継ぐ資格はあるのか。民を統べるほどの能力はあるのか。「しんじろ」とでもいうのか。冗談じゃない。故郷の旧友からは丁重におもてなしされているが、国民すべてが許すと驕るなよ。

君は何をした?

「たてがみ」が立派な親父の子だったというだけじゃないか。結婚しようと子を設けようと、そんなのは関係ない。多少の祝福くらいはするが、のうのうと王座に座ることは許さない。むしろのちに妻となるナラの方が勇敢だったよ。よっぽど動物愛護精神に満ちている。君は戦いに勝ったというかもしれないけれど、脂の乗った青年が叔父に負けるだろうか。王となったシンバが、崩れた生態系をどう解決したのか(そもそも食糧問題に取り組んだかどうかすら)も描かれてはいません。

無論、この映画が古典的な神話的構造に沿っているというのはわかります。しかしながら、あまりに説得力に欠けるではありませんか。この神話構造の知識を持ち合わせていない人へ、どう説明を果たすのでしょうか。超実写などと謳われた作品であるからには、それ相応の説得力が必要です。外側がリアルであれば、内側もよりリアルに徹底すべきです。血統に甘んじるべきではないのです。

「映像美」がすべてなのか

たしかに映像は息をのむほどリアルです。本物と見まがうほど。いや別に見たことないけど、そんな手垢のまみれた言葉が思わずこぼれてしまうほどには。

市井にはこんな声もあります。ディスカバリーチャンネルやアニマルプラネットのようで素敵で素晴らしい映画だ、と称える意見です。私は目を疑いました。誰もこの映画を疑わないのかと。畢竟、もしそうであればディスカバリーチャネルやアニマルプラネットを鑑賞すれば足りるのです。どころか、より科学的で血肉となる知識に出会うことができるでしょう。リアル、という三文字は「映画」への正当な評価でしょうか。

テクノロジーはテクノロジーでしかありません。さもなくば、いま初代の『トイ・ストーリー』を見て涙を流す人はいないはずです。コンピューターのスペックだけで語ればiPhone 1台程度で事足りるのですから。

トイストーリーはずっと面白い。『ズートピア』だってきっと今の社会がフラットになっても、その魅力は消えないでしょう。ここで問いかけましょう。あなたは『ライオン・キング』を5年後、10年後にもう一度見たいですか? 断言しましょう。少なくとも私はそうは思いません。

なにが本当のリアルなのか

ファンタジー相手に重箱の隅をつついて気持ち悪い、と思われるかもしれません。しかし相手が「超実写」である以上は、こちらも写実的に向き合うのが筋です。25年前の作品のリブートなのですから、より現代にフィットした内容であることが求められます。

原作に比べて、ナラが解放的な女性像をつかんでいる、なんて見せられても、もはや誰もそんなことでは驚きません。意地悪な見方をすれば「パフォーマンス」に過ぎないかもしれない。

ディズニーだから、と安心しては掬われます。ディズニーだからと甘えさせてはいけません。たとえ相手がディズニーという王国であっても、外側で判断せず、実際に彼らが何をしてくれたかを誠実に向き合う必要があります。異を唱えて良いのは、王権を神授されたものだけではありません。納得のいかないことがあれば、誰もが声をあげなければいけません。

Because it’s “OUR” responsibility.
それが私たちの責任なのですから。

解説『ライオン・キング』(2019)

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監督:ジョン・ファヴロー
出演:ドナルド・グローヴァー, セス・ローゲン, キウェテル・イジョフォー, アルフレ・ウッダード, ビリー・アイクナー, ジョン・カニ, ジョン・オリバー, ビヨンセ・ノウルズ=カーター, ジェームズ・アール・ジョーンズ ほか

言わずと知れた94年のクラシック映画のリメイク版。「超実写」と銘打った迫真のフルCG作品です。制作費は4500万ドルと、帝国でしか成し遂げられないスケールで勝負をしかけてきます。

「帝国」という字面をみてふと思い出すのがジャングル大帝のこと。盗作ではという批判もありますが、そういうことを言い出すとキリがないし両方面白いので目をつぶることはできなのだろうかとも思います。そういえばどこか東の島国では盗作の恨みで30人以上殺してしまう阿保もいたそうですが、「何にも影響されていないスタンドアロンの作品など存在しない」ということすら理解できない人に文芸や芸術をすることは不可能だと筆者は思います。日本人であれば手塚治虫のことよりも、アフリカ文化そのものの盗用の是非について議論すべきです。日本人としてではなく、アジアの一員として。

閑話休題。監督はアベンジャーズの「ハッピー」もとい『アイアンマン』シリーズや『ジャングル・ブック』などを手掛けたジョン・ファヴロー。なるほど、立体的な空間の表現が上手なわけです。誰がどこにいるか、いまここがどこなのか、ということが簡単に把握できます。地形を舞台装置として活かす工夫も見事で、権力の優劣やキャラクターの心情がロケーションと密接に関わるような演出を徹底しています。無から有を生み出すアニメだからこそですね。

(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.

wikipediaを眺めながら、え、あのおっちゃんは監督もしてたの? と目を丸くする人も多いとか、そうでもないとか。

いろいろ不満を言ったけれど、とはいえ「さらっと見せれちゃう」というのはスゴいですよね。さすがはディズニー。筋を知ってて飽きがこないのですから、刺激を絶やさない工夫というのは敵いません。あとティモンとプンバァは、実写テイストでも可愛い。むしろコッチの方が可愛いのでは?とすら思います。愛されるのに必要なのは見た目じゃなくてきっとキャラ立ちなんだなあ、なるほど勉強になります。

 文・川合裕之
編集・安尾日向

【参考・参照】

The Lion King review – resplendent but pointless
https://www.theguardian.com/film/2019/jul/21/the-lion-king-review-remake-jon-favreau-beyonce

モンキー「映画「ライオンキング(2019)」感想ネタバレあり解説 話は同じだが超実写と言われるだけはある。」
https://www.monkey1119.com/entry/lionking2019-movie

まめきちまめこ 「【映画感想まんが】超実写ライオンキングはディズニー作のドキュメンタリー番組だった」
http://mamekichimameko.blog.jp/archives/79864081.html

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川合 裕之

95年生のライター/ 編集者。長髪を伸ばさしてもらってます。 フラスコ飯店では店主(編集長)をしています。

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