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いつだってやめられる薬物定食

これもマスト?あれもマスト?

世の中にはコンテンツの品数が多すぎる。

どんなカルチャーを食べてよいかわからないと悩まないよう、フラスコ飯店が食べ合わせの良い「定食」を自信をもってご提案いたしましょう。ひとつのテーマに沿って映画・書籍・音楽… などなど媒体を横断した鑑賞セットを考案します。

今回のテーマは「薬物」。日常生活ではなかなか口にできない危険の味。合成麻薬から新鮮な大麻、さらには三陸沖の違法な魚介まで幅広く取り揃えました。

「いつだってやめられる薬物定食」の献立

・映画『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』
・集英社新書『文系学部廃止の衝撃』
・小学館『サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~』
・Netflix『グラス・イズ・グリーナー』

1. 『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』(2014)

掛け値なしに面白い!まずは主菜にイタリア産のクライムコメディをどうぞ。

学位はあるけど仕事が無い。知識があるけど金がない。そんな中年大学教授が集結して合法の合成麻薬で一発逆転を狙います。化学者、人類学者、経済学者、地学者、言語学者などなど……かなり乱暴に換言するなれば “教授アベンジャーズ” が集結して製造から流通までを取り仕切り、ドラッグの世界へ挑むわけです。

明らかに悪いことをしているはずのに、どこかチャーミングで憎めない中年オジサンたちの頑張りを微笑みながら見守ってあげてください。なお、本作は3部作の1作目。続編の『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』, 『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』もオススメです。

『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』(2014)

監督:
シドニー・シビリア

キャスト:
エドアルド・レオ, バレリア・ソラリーノ, ステファノ・フレージ, バレリオ・アプレア, パオロ・カラブレージ ほか


2. 『文系学部廃止の衝撃』

前述の「いつだってやめられる」シリーズをもう少し。各学問分野のエキスパートオジサンたちが、金に困って麻薬製造に手を染める――。そんなあらすじとは裏腹に、実は手放しで笑える阿呆なコメディなのです。なんでこんなにコミカルなの? 実は “教授アベンジャーズ” は理系だけでなく文系領域のエキスパートも揃っているから。

これが理由のひとつです。厳重に保存されている銃剣を勝手に持ちだしたり、なぜかラテン語でいがみ合ったり。この映画のコミカルさの一端を担うのが「文系」の遊び心です。

そんな彼らの遊び心も、アカデミックの世界の外に追いやられてしまっては使い物にならず、誰にでもできるアルバイトをせざるをえないのです。教壇に立つことができなければ、キモくて金のないオッサンになってしまう。

前置きが長くなりましたが、話をもとに戻しましょう。キャッシュを生まない学問、特に文系が軽んじられる状況は日本でも同様です。そんな人文領域が「なぜ面白いのか?」, 「なぜ役に立つのか?」そして「なぜそれが今の日本では軽視されてしまっているのか?」といったことを具体的に導いてくれる1冊です。

2015年5月に文科省が発表した「国立大学法人等の組織及びぎ業務全般の見直しについて」の通知を発端とする騒動。これが何を意味するのか、具体的にはどのような危機が迫っているのか。文系とはそもそも何なのか。そうした問いを見つめ直すきっかけを与えてくれます。3年前の本ですが、けっしてその内容は古くありません。短絡的ですぐにかび臭くなってしまわない「文系的な知」がここに詰まっています。

『文系学部廃止の衝撃』

■吉見俊哉(よしみ しゅんや)

一九五七年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授。同大学副学長、大学総合教育研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専攻としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの中心的な役割を果たす。主な著書に『都市のドラマトゥルギー?東京・盛り場の社会史』『「声」の資本主義?電話・ラジオ・蓄音機の社会史』『大学とは何か』『夢の原子力』ほか多数。

3. 『サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~』

ドラッグを語る上で、必ずといっていいほど直面するのが「黒い社会」ですが、なにもそれはフィクションの中だけではありません。知り合いの知り合いの、そのまた知り合い……と数珠つなぎで辿っていくと大統領の電話番号さえ知ることができると言います。なんでも鳩山邦夫だって友達の友達はアルカイーダだそうですからね。怖い人は、遠く無縁のようで意外と近くに潜んでいるかも。

日本でミュージシャンが違法薬物で捕まってしまった際には「誰にも迷惑はかけてないじゃないか!」という擁護の声があがります。これに対する反論の定型句がこちら。「暴力団の資金源になっているからダメだ!」 じゃあ、昨日食べた魚はどう――?

というのも、実は日本に流通する魚介類の影には、暴力団の密漁ビジネスが存在するのだとか。本書は、2013年から5年間をかけて密漁ビジネスを取材した実録レポです。事実やデータの羅列に終始しないエンタメ性も読みやすさの秘密。

ウェットになり過ぎないドライな質感で斜めから構えた筆致は「いつだってやめられる~」との食べ合わせにも良いはずです。

『サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~』

■鈴木智彦(すずき・ともひこ)

一九六六年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。主な著書に『ヤクザと原発 福島第一潜入記』『潜入ルポ ヤクザの修羅場』など。

4. 『グラス・イズ・グリーナー』

大麻だって忘れてはいけません。『グラス・イズ・グリーナー』はNetflixが製作するアメリカの大麻規制の歴史100年をたどるドキュメンタリーです。

「いつだってやめられる~」の登場人物たちは “まだ違法ではない” 麻薬を化学的に製造することに腐心します。のちに警察の捜査の手が回り、彼らの合法麻薬は、違法ドラッグへと塗り変えられてしまいます。そう、国と時代によって薬物の合法非合法の線引きは変わってしまうのです。つまり、誰かが決めた法なのです。なんのために? もちろん社会の秩序のために。しかし、必ずしも正義のためではないのです。そこには看過できない私見と差別が潜んでいるかもしれません。

その一例がアメリカの大麻規制です。国際的な風潮としても寛容に解禁されはじめた大麻。ではなぜ今まではダメだったのでしょうか?ひとつの答えがここにあります。

この作品自体はアメリカの話ですが、自分たちの身の回りにも思惑や利権を隠す建前がないかどうか考えるきっかけになることでしょう。

監督:
ファブ・ファイブ・フレディ

(Netflix 独占配信作品)

さあ、「いつだってやめられる薬物定食」と題しまして4つの作品をご紹介しました。是非とも時間をかけてじっくりとご賞味ください。それでは今日はこの定食にピッタリなSnoop Dogg を聴きながらお別れです。

※くれぐれも違法薬物の使用はやめましょう

 文・川合裕之
編集・和島咲藍

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