Te wo Arai mashou.

おつかれアベンジャーズ特集 フェーズ2(2013~2015):正義はどこにあるのか?

10年も続いたエンタメをいま俯瞰して振り返ると、当時の社会の様子をも思い出すことができるかもしれない。

MCUでヒーローたちが戦った敵の姿は、その時代の社会の課題と重なるのではないでしょうか? そうした仮説のもとMCU作品を振り返ります。今回は、2013年から2015年のフェーズ2の敵にフォーカスを当てて読み解いていきます。

Caution!
この記事にはMCUシリーズのあらすじ程度のネタバレが含まれています。

▷特集フェーズ①:
「大いなる力には大いなる責任が伴う」

▷特集フェーズ②:(このページ)

▷特集フェーズ③:
トランプは僕らの心の中に

『アイアンマン3』(2013)でアイアンマンの3部作にピリオドを打ち、景気良く始まったフェーズ2。

『キャプテン・アメリカ/ザ・ウィンター・ソルジャー』(2014)や、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)といった、MCUという文脈を踏まえずとも単体で美味しい作品がズラリと並びます。

そんなフェーズ2の敵の姿を掘り下げて見ていきます。

フェーズ2の敵:「正義」へ疑念を持つ者たち

フェーズ2の特徴は、従来の「正義」に疑問を抱いた者たちが敵に転じているということです。

たとえば『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)は、トニー・スタークが生み出した人工知能ウルトロンがアベンジャーズに反旗を翻す、というお話でした。正義を名乗り武力を振り回すアベンジャーズこそが人類に対して不利益をもたらしているのではないか?と世界の警察に対して鋭い眼差しを差し込みます。

『エイジ・オブ・ウルトロン』では東ヨーロッパで起こった大きな戦闘(通称:ソコヴィアの件)をきっかけに『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でも引き続き自警団としてのアベンジャーズの存在意義が問われてきます。アベンジャーズを国連の支配下に置く「ソコヴィア協定」の是非をめぐってヒーローたちが分断してしまったのです。

実は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)もまた、同様のテーマでした。予防攻撃でテロを未然に防ごうという「インサイト計画」が争点。これがのちにヒドラの巣食うS.H.I.E.L.D による大きな陰謀だったと判明するのです。

※【自警】ここでは司法を介さずして、個人の判断で、個人の武力で悪を裁く行為のこと。またそうした人たちを自警団と呼びます。自警団の是非は、近年のどのヒーロー映画でも度々持ち上がる重要なテーマのひとつです。

ヒーローの自警行為にひとつのアンサーを出したのが『アイアンマン3』(2013)です。この作品の最後で、スタークは自衛の手段であるアイアンマンスーツをすべて手放します。

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打ち上げ花火に見立てるように、空へとスーツを放ち爆破する彼の演出はパートナーであるポッツへの愛情表現であると同時に、スターク自身の成長を祝す花火のようでもありました。1作目のアベンジャーズで起こったニューヨークでの大きな戦闘の、トラウマと恐怖から兵器に固執するスタークが、その依存状態を克服してついに過剰な防衛武装を解除したのです。

フェーズ2の作品は、往々にして根拠の乏しい「正義」に懐疑的な眼差しを向けるような語り口でした。さて、では実際の世界はどうだったのでしょうか?

結果オーライとはいえ

(C)Marvel 2015

それまで世界(もといアメリカ)は「悪」に対して、「正義」を代表するような形で妥協のない制裁を加えてきました。

しかしながらそうした行為は本当に正しいものだったのだろうか?といった問いがより顕在化してきます。00年代後半においても、武力行使については批判的な声はあがっていましたが、いよいよその声が大きく響き渡りはじめます。

おつかれアベンジャーズ特集 フェーズ1(2008~2012):後を引くテロとの戦い。

2015年にはブレア元英首相がイラクへの侵攻が「誤りであった」とはっきりと明言して謝罪しています。フセイン政権への攻撃の根拠となった大量破壊兵器は存在しなかったことを認めて頭を下げているのです。この事実自体はもっと前から世間に晒されていましたが、公式に謝罪したことは大きな転換点だと言えるでしょう。

制裁を加える理由は不明瞭だったとはいえ、やはり中東の過激勢力は討伐すべきだったことには変わりはない。やり方はまずかったが、結果には納得している。というような具合で反省点はあるものの「結果オーライ」の干渉だった、という評価のイラク戦争でしたが、それ以外の介入に良い思い出はありません。ボスニア、コソボ、ソマリア、などでの人道的介入は決して成功したとは言えませんでした。

(C)2016 Marvel All rights reserved.

武力としてのアベンジャーズを、作中の世界の人達がどう捉えるか?という論点が大きくなってきます。脅威を持つ “かもしれない” というだけの理由で相手に手をあげることは妥当なのか。本当に予防攻撃が正しいのか?先に述べたように、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014), 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)』では、アベンジャーズのこれまでのヒーロー活動もとい自警活動の是非を問います。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)では、意見が分かれ、チームが大きく二つに分断されてしまいます。

アラブの春と、その失敗

(C)2016 Marvel All rights reserved.

自己判断の正義が大きな風を巻き起こします。2011年のアラブの春です。

まずは2011年1月にチュニジアで、次にエジプトで軍事政権が民衆の手で転覆させられたのです。自分たちの手で、道を切り開くことができる。こうした風潮がヨルダンやモロッコ、リビアやシリアなどアラブ諸国一体に広がります。

アラブの春というこの民主化の波をきっかけに各国が抱える問題は解決するかのように見えましたが、現実はそうもいかず。以前にも増す混乱を招くことになります。政治的な主義主張のない若者たちがデモに参加したわけですが、その後の舵取りが上手くいかず。また欧米外国諸国が介入しなかったため馬力が足りなかった国もありました。

エジプトで革命により立ち上がったムハンマド・ムルスィー政権は、2年後に同じく民衆のデモにより退陣を余儀なくされてしまいます。シリアはシリア政権と反政府側が大きく衝突し、内戦状態(敢えて英語表記するなら Civil War )へ突入します。

※なお、ムルスィー氏は2019年6月、拘束中に死去したことが報じられています。自分へかけたれた嫌疑はすべて事実とは異なる、と鉄格子の中から訴えた公判の直後、意識を失い搬送先の病院で息を引き取りました。

アラブの春が人々に残したのは、体制・反体制のターンオーバーは簡単だ!という甘い幻想でした。コインのように簡単にひっくり返すことができる。……かもしれない。一度春を知ってしまったからには、血を流してでも戦おうという想いが強まりました。春風に背中を押されて政権を獲得した者たちもまた、またいつ「春」が来るかわからないと怯え、以前よりも厳戒な軍事体制・警察体制へと傾きます。不穏なサイクルです。

非暴力の勝利は束の間でした。なお、奇しくもこの2011年は、アメリカによりビンラディンが殺害された年でもあります。ここでも世を導いたのは、ペンや数の力ではなくて鉄槌でした。

撹拌されるテロ

人々が、民衆運動ではなくテロに手を染めるようなこともありました。

ISが西欧の若者を煽動したことにより、凄惨な暴力が身近なものになってしまったのです。2015年にはパリで同時多発テロが発生。死者130名を記録する大規模なもので、以降もイギリスやベルギーといったヨーロッパ各地でこの種のテロが頻発することになります。

(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.

そうした事態に際しては正義の拳を行使しないわけにもいかず、矛盾に引き裂かれながらも時は過ぎ、テロによる死傷者は増え続けてゆきます。しかし一方で彼らには彼らなりの義憤があったのです。だからこそ各々が命も顧みないテロに身を乗り出したわけです。

正義が乱立する環境だからこそ、まとまりがなく衝突が起こる世界へと突入します。目の前の悲惨な出来事には迅速な対処が求められますが、しかしその根本を叩くことには二の足を踏むしかありません。何が正義で、何が正義でないかは簡単には分からなくなってしまったのですから。世界の平和秩序を正義でもって保つためには、まずは何が自分たちの正義を担保するのか、しっかりと吟味する必要があったのです。

続きはコチラから!
・特集フェーズ③ (2016〜2019):トランプは僕らの心の中に?不寛容と排斥にだけはNOを叩きつけろ!

   文・川合裕之
  編集・和島咲藍(@medetais)
イラスト・サイトウアケミ(@pinao3110)

【参考】
酒井啓子『9.11後の現代史』(講談社現代新書, 2018年)

「イラク進攻は「誤りだった」、ブレア元英首相が謝罪 CNN EXCLUSIVE」2015.10.26
https://www.cnn.co.jp/world/35072456.html

「ボストン爆弾テロ事件、被告に有罪評決」産経ニュース 2015.4.9
https://www.sankei.com/world/news/150409/wor1504090014-n1.html

山田敏弘「シリア政府は本当に化学兵器を使ったのか」Newsweek 2013.9.5
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2013/09/post-3035.php

Misha Ketchell “Iraq’s brutal crackdown on suspected Islamic State supporters could trigger civil war” 2019.2.20
http://theconversation.com/iraqs-brutal-crackdown-on-suspected-islamic-state-supporters-could-trigger-civil-war-109399

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