2020年に公開された映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の謎――どうして消えるデジモンと消えないポケモンがいるの?――にせまるレビューをお届けします。
まずは前提として「デジモンはかわいい、じゃなくてかっこいい」のコンテンツであることを前の記事でお伝えしました。バンダイ自身も “戦うたまごっち” という宣伝文句をつかっているくらいです。デジモンは「かっこいい」を意識したものなのです。
〈前の記事:ポケモンとデジモンの違いについて考える | 『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』レビュー(前編)〉
さて、これを踏まえていよいよ本格的に『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の内容に切り込んでいきます。
前編、後編に分けて記事を掲載していますが、本記事の後編だけを読んでも楽しめるように執筆しました。
また、後編を読んだ後に前編を読んでいただいてもどちらの内容も理解してもらえるかと思いますので是非読んでみていただけると幸いです!
大人になったらデジモンは消える。なぜ?どうして?そもそも「大人になる」ってどういうこと?なかなか腑に落ちなかった疑問を徹底的に解消していく考察記事です。
大人になったらデジモンは消える。なぜ?どうして?そもそも「大人になる」ってどういうこと?なかなか腑に落ちなかった疑問を徹底的に解消していく考察記事です。
男子たちには必ず
「かっこいい」を手放す時がくる
映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』ではそんな「かっこいい」デジモンたちがついに最後の進化を遂げる。
この映画では太一とアグモンに別れが訪れる。
舞台は2010年。当時11歳だった八神太一は22歳。卒業論文になかなか取り掛かれず悶々と過ごしながらパチンコ屋のアルバイトで日常を潰す大学生。デジタルワールドから現実世界に迷い込んだデジモンたちをパートナーデジモンをもつ仲間たちと共にデジタルワールドへ送り返すという活動をしているものの、それはかつての冒険のような刺激的なものではなく、デジモンバトルは日常のワンシーン。
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
そんな中、太一とアグモンを繋ぐ「デジヴァイス」に謎のカウントダウンが表示される。そのカウントダウンの正体はアグモンと一緒に過ごすことのできる残り時間だという事実を知った太一たちに新たな敵、エオスモンが忍び寄る。
ちなみに今回の敵エオスモンや新キャラクターのメノア・ベルリッチのキャラクタープロットやシナリオ構成は『デジモンアドベンチャー』のOP曲『Butter-Fly』の歌詞に添って作られているという粋な演出!台詞、作画のひとつひとつを聞き逃せない見逃せないほど細かく描写されています!
もちろん、今回も「かっこいい」バトルシーンや進化が見られる本作品。
だけど、今回の最大の敵はエオスモンでもなければその裏に潜む黒幕でもない。ズバリ!「子どもから大人になる」という自分自身の心なのだ。
デジヴァイスに表示された謎のカウントダウンは「大人になるとデジモンとのパートナー関係を解消する」という残酷なメーターであり、太一の心が大人に成ってしまうとパートナーデジモンであるアグモンが目の前から消えてしまうというもの。
太一たちと同じく当時夢中に成ってデジモンを見ていたぼくたちも歳をとってしまった。
仮面ライダーやウルトラマン、孫悟空の超サイヤ人化のような変身ものに憧れた男子たち全員が直面する現実。
それは「進化」でも「変身」でもなく「成長」を要求される歳になってしまったということ。
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
卒業論文の提出、就職活動。そしてそれらからくるプレッシャーによる居酒屋での会話。
太一たちの次なるアドベンチャーは「いっけぇぇぇぇ!」と叫んでもモンスターたちには解決することができないのだ。
男子にはいずれ「かっこいい」を手放さなければならない時がくる。
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
「いっけぇぇぇぇ!」と叫んでいた男子たちが次々に「かっこいい」を手放していく年齢。それが20代前半の就活の時期ではないだろうか。
多くの男子たちは人が変わったかのようにみんなおじさん予備軍へと変貌を遂げる。
「かっこいい」であったはずのコンテンツたちはいつしか「ダサい」に変化してしまう。
カラフルなスニーカーやキャップからフォーマルな革靴とジャケットに着替えていく。
手放すというとまるで自らの意思を持って選択したかのように思えるのだけど、ほとんどの場合無意識のうちに手放していることの方が多いのではないか。
あんなにも無邪気に「かっこいい」と感じていた感覚がいつしか消えて無くなってしまう。そして大人になった男子たちは「かっこいい」をふと「懐かしい」に変換してしまう。
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は大人になるとパートナーデジモンが消えてしまうというデジモンとの別れを描くことにより、消えていく「かっこいい」という感覚を視覚化した映画なのだ。
「かっこいい」というのは一時的な魅力である。
「かっこいい」は戦いが終われば魅力を失ってしまう。
ぼくたちはいつまでたっても「かっこいい」を追い求めている男子ではいられないのだ。
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
そしていよいよ太一とアグモンの別れの時がきてしまう。
「明日は何をするの?」
「明日の予定は……わからない」
『Butter-Fly』の歌詞から引用されたそんな台詞の直後、音もなく消えるアグモン。
あのシーンを観て涙を流す同世代の男子たちよ。きっとぼくたちは小学生の頃出会っていたなら友だちになれたはずだ。
しかし、ここでひとつ疑問が浮上する。
エオスモンとの戦いを終えた太一とヤマトのふたりのパートナーデジモン、アグモンとガブモンは消えてしまうのだけれど、他のメンバーたちのパートナーデジモンはまだ存在するのだ。
しかも、デジヴァイスにカウントダウンすら表示されていない。
太一とヤマトにはそれぞれ卒業論文と就職活動という戦いが残されているのに対し、他のメンバーたちはパートナーデジモンとともにネットショップを立ち上げていたり、医療免許を取ろうと努力していたり、家業の生け花を志すものもいる。
世間一般からすれば「大人になっていない」のは太一とヤマトのふたりだけなのだ。
太一とヤマトが一足先に「大人になった」からパートナーデジモンが消えたのでは?という意見の辻褄が合わない。
一体全体どういうことなんだ!ちゃんと説明してくれ!という願いも虚しく
「絶対、会いに行くからな!」
というまたしても『Butter-Fly』の歌詞からサンプリングされた太一の台詞を最後にエンドロールへ。
子どもと大人の狭間で何を選ぶ?
一体なぜ、太一とヤマトのパートナーデジモンであるアグモンとガブモンは消えてしまうのに他の “選ばれし子ども” のパートナーデジモンは消えないのか。
それを解き明かすヒントは公式からYoutube上にアップされている『「空へ」(デジモンアドベンチャー20th メモリアルストーリー)』という動画の中に隠されていた!
映画本編の中でほとんど登場しないキャラクターの空とパートナーデジモンであるピヨモンの暮らしを描いた前日譚だ。
家業の生け花を志す空にとって戦いのたびに召集されるメンバーたちとの連絡に対して劣等感を抱きつつ、「戦いに参加するのを辞める」ことを選択する。
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
家業の生け花に専念して挑んでみるものの、メンバーたちとの関係を気にするあまり、思い通りに作品をつくることができないでいた。
そんな時、パートナーデジモンとともにネットショップを立ち上げ成功を手にしている仲間のミミからのビデオ通話が繋がる。
空を元気付けるためにミミはこんな言葉を送る。
「あたしたちが “選ばれし子ども” になったのは運命だと思うの。でも、宿命じゃないと思うんだ」
そして通話の後、空のパートナーデジモンであるピヨモンが空を元気付けるために花束をプレゼントする。空は涙を流しながらピヨモンを抱きかかえる。
ミミや空にとってパートナーデジモンは戦いのために与えられた存在ではないのだ。
だからミミや空のようにパートナーデジモンを生活の中で必要としている “選ばれし子ども” には別れが訪れない。
“選ばれし子どもたち” にとって戦いという宿命があったとしても彼女たちにとってその戦いは運命ではないのだ。
つまり、彼女たちはデジモンとのパートナー関係の必要性を戦い以外の部分に見いだすことができたのだ!
「大人になるとパートナーデジモンが消える」それは太一たちの勘違いだったのだ!
作中の台詞の中で
「未来に広がる無限の選択肢、そのパワーがなくなればデジモンとのパートナー関係は解消される」
という表現がされている。つまり、戦いの中にだけデジモンたちの役目を見い出すことのできなかった太一とヤマトにはデジモンとのパートナー関係の解消が待っていたのだ。
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
大人になっても冒険(アドベンチャー)は終わらない!
いつまでも「かっこいい戦い」や「かっこいい進化」だけをデジモンに求めていた男子たちにはデジモンたちの魅力を自分自身の中に維持することができなくなってしまう。
卒業論文や就職活動のような「無限大の夢の後の何もない世の中」ではぼくらはいつしか「かっこいい」を求めなくなってしまう。
「宿命は変えられないかもしれない。でも!運命は変えられる!」
太一とヤマトはそう言ってエオスモンを倒したのだ。
その先に広がる無限の選択肢、そのパワーを信じることができるものこそ本当の「大人」である。そして、そんな大人たちだけに新しい冒険が待っている。
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』という作品は「最後の進化」を遂げた “選ばれし子ども” とパートナーデジモンたち、そしてあの頃夢中になって「かっこいい」を追い求めたぼくたちのような大人たちに新たな冒険を予感させるものであった。
明日のことはかわからない。大人になってもまだまだ冒険は終わらないのだ!
文・金城昌秀
編集・川合裕之(フラスコ飯店 店主)
解説『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION絆』(2020)
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
監督:
田口智久
声優:
花江夏樹, 細谷佳正, 三森すずこ, 田村睦心, 吉田仁美, 池田純矢, 榎木淳弥, M・A・O, 坂本千夏, 山口眞弓, 松岡茉優, 小野大輔 ほか
OPにはアニメシリーズ初代の『Butter-Fly/和田光司』が当時の原曲そのままに使われている。
2016年に上咽頭がんにより42歳という若さでこの世を去った和田光司氏。そんな彼の歌う『Butter-Fly』の歌詞に沿ったストーリー展開やセリフ、新キャラクターたちのデザインに心を奪われるファンも少なくない。
映画館を出た後に『Butter-Fly』をもう一度聴くことでデジモンへの愛が深まる作品である。
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