I’m back. Omatase. 

耳が覚えているあの映画 #5『レザボア・ドッグス』

悪だくみをする男たちが大好きだ。

学校や会社では口にしてはいけないような汚い言葉を使って、薄暗くて狭い場所で馬鹿笑い。時々、口論になりながらも、なんだかイケナイことをたくらんでる男たちがぼくは大好きだ。『レザボア・ドッグス』(1992)も含めて、タランティーノの映画にはそういうやつらがよく出てくる。

IMdbより

彼らはなぜかいつも半笑い。自分たちにしかわからない言葉を使って突然笑いがおきたかと思えばその次には取っ組み合いが始まったり。彼らの話は輪の外の人間からすると一体なんの話をしているのかわからない。なぜなら、その会話には主体性もなければ生産性も一切ない。

そんな彼らが一致団結して行動を起こす時というのは、大体がくだらなくてバカバカしい悪だくみが始まった時。

馬鹿な男が4〜5人集まって訳のわからないことで大笑いしだした時は要注意だ。
もう一度確認する。ぼくはそんな悪だくみをする男たちが大好きだ。

そんな男たちにぴったりの音楽があるとするならこの一曲は外せない。
ジョージ・ベイカーの「Little green bag」(1969)だ。

クエンティン・タランティーノの映画『レザボア・ドッグス』(1992)のメインテーマ曲として有名なこの曲は、暗くて狭い部屋に集まった半笑いの男たちにぴったりのサウンドだ!

是非とも楽曲を再生しながらこの記事を読んで貰いたい!

Lookin’ for some happiness 

幸せを追い求めてるってのに

But there is only loneliness to find

孤独しか見つからねえ

「Little green bag」(1969)より

と歌われるこの曲がなぜ半笑いテキトー男たち、つまり映画『レザボア・ドッグス』(1992)にぴったりなのか。そしてタイトルとなっている「A little green bag」って結局なんのことなの?というところなどを半笑いで解説していこう!

怪しさを醸し出すイントロの秘密

「Little green bag」(1969)のイントロはとても印象的なあのベースフレーズから始まる。
CMに使われていたり、コント番組のOP曲として使われたりしている曲なので、映画を知らない人であっても多くの日本人が聴いたことのあるフレーズのはずだ。

ここでのベースのフレーズはマイナー調で、楽曲の最初から怪しさを醸し出す。リズムはシャンシャンと軽い金属音を鈴が奏でているだけ。

IMdbより

その直後にキャノンタムの「タタン!」という音がすかさず入る。そのタムにはわざとらしいくらい深いリバーブがかかっている。このキャノンタムがいい仕事をしている!
薄暗い部屋に灯る吊るされた電球の光か、はたまた、タバコに火をつけた瞬間に漂う煙か。そんな映像が似合うような。なんにせよ、怪しさを演出するサウンドである。

リバーブってなんだ?エフェクトってなんだ?

「キャノンタムにわざとらしいくらい深いリバーブがかかっている」と書いたが、ここで一度「リバーブ(Reverb)」が一体なんなのか?という疑問から解決しよう。この曲の怪しさはコード進行やメロディだけでなくエフェクトと呼ばれる機材やソフトによって演出されている。

まず、楽曲におけるエフェクトとはなんなのか。簡単に言えば「特殊効果」のようなもので、身近なもので例をあげるとするならカラオケのマイクにかかっているエコー(Echo)なんかもエフェクトの一種だ。

他にも代表的なものをあげると本来は「チャラ〜ン」と鳴っているギターの音を「ギャーン!」と歪ませる(ひずませる)ディストーションなんかも一般的によく使われるエフェクトだ。

ちなみに、King Gnuなんかはそのディストーションをボーカルの声にかけて声を歪ませたりする使い方をしてたりもする。

あと、エフェクトは全般的に元となる音、つまり「原音」に対して「かける」という風に言われることが一般的だ。

理解のある方からすれば「何を今更……」というような話かもしれないが、ぼくが中学生の頃なんかはその辺りの言葉の使い回しがなんと表現していいのかわからなくて混乱したのを覚えている。なので過保護なくらい説明させてください!音楽好きな少年にちょっとでもモテたいので!

「あのキャノンタム」にリバーブがかかると……

いよいよ本題のリバーブ(Reverb)について!これまた少年の頃のぼくが最も混乱したエフェクトのひとつだ。

Googleの検索エンジンに尋ねて見ると「音に残響音や反射音を加えることで、空間的な深みや広がり感を出すエフェクトです。」と答えてくれる。

じゃあカラオケのエコー(Echo)やそれに類するディレイ(Delay)と何が違うのさ!という疑問が浮かぶが、これが全く違う。エコーはやまびこのように一度鳴った原音を時間をずらして繰り返し鳴らす効果があるのだけれど、リバーブは原音に残響音や反射音を加える。

百聞は一見にしかずならぬ、百読は一見にしかず。一度その違いを聴いてみよう。
Youtube動画の中でも短くてわかりやすい説明をしてくれている方がいたので覗いてみてね!動画は2分弱という短いものです!

字幕機能をonにして見てね!

つまり、リバーブというエフェクトは空間の広さを操るとても重要な効果を持っているのだ!

ギターの歪む音は元々、アンプの許容する出力以上の音量を出そうとしたギタリストが……いや!話を『Little green bag』(1969)のリバーブに戻そう!

ここでもう一度イントロのキャノンタムとその後に入ってくるドラムのサウンドを聴き比べてみて欲しい!

どうですか!リバーブってすごいですよね!キャノンタムの「タタン!」という音は広い運動場の向こうの方で鳴っているような印象に対して、その次に入ってくるドラムセットの音は綺麗にカーペットがしかれ、吸音された部屋の中で叩いているような印象だ!

キャノンタムのリバーブによって音像の広さを表した後に入ってくるドラムが対比的に渇いた音となっているため、ただドラムが入ってくるよりも一度リバービーなキャノンタムを挟むことでドラムによるビートの存在感がくっきりと聴こえるマジックが施されている!つまり、このリバーブというエフェクトを駆使することによって、「だだっ広い運動場」と「高級な音楽スタジオ」の二つの空間が一曲の中で一緒に存在することが可能なのだ!こういったリバーブによるマジックはこの曲だけでなく、たくさんの音楽のなかでいろんな使い方をされているので探してみて欲しい!

ああ!面白い!

 “すべらない話” みたいな曲

この曲のすごいところはまだまだたくさんある。次はボーカル、ジョージ・ベイカーの「歌い方」について聴いていこう!ぼくは彼の歌い方にこの曲と映画『レザボア・ドッグス』の親和性が隠されていると考えている!

Aメロの冒頭はウィスパーボイスと呼ばれるような吐息の音を少し混ぜた声で歌い始める。これまたリバーブキャノンタム同様、怪しさを演出しながら少しずつ地声の割合を増やしていく。

すると裏打ちのギターが曲全体に少し明るさをもたらす。その直後、今までの怪しく渋い歌声は1オクターブ上がって甲高い叫びのような歌声とチェンジ。ここでぼくが感じるのは最初の渋さや怪しさの演出を自分自身でぶち壊すジョージ・ベイカーの中の “半笑い男精神” である!ギターが入ってくるところなんて怒ってるフリをしてる男が吹き出しそうになって半笑いになってしまっているような感じだ。

IMdbより

そして馬鹿笑いするかのようなサビがくる!さっきまで渋く、怪しい感じで歌っていたのはギャグなんじゃないかってくらいにメロディもベースラインもギターもパーカッションも大騒ぎである!しかも歌が上手い!それがまたなんだか笑える。

自分の渋い歌声や演奏をフリに使っておいて、サビでドカーン!もはや「ジョージ・ベイカーのすべらない話」である。

この「すべらない話」理論はあくまでぼくの見解だ。ぼくはこの曲をそういう風に感じた訳で、音楽の聴き方、捉え方は人それぞれの自由である。作者の意図があろうがなかろうがみんなそれぞれ好きな聴き方をするべきだとぼくは考えている。だから、ぼくにとってジョージ・ベイカーのこの曲はとっても愉快なおじさんのような楽曲なのである。

上手いって面白い

少し話はそれるが、上手い歌や楽器のプレイってシチュエーションが揃うとなんだか笑える。ぼくはバンドを組んで活動してるんだけど、バンドメンバーが「元気を出したい時、とにかく笑いたい時に見る動画」と教えてくれた動画がある。

それは盲目の天才シンガースティーヴィー・ワンダーの若かりし頃のライブ映像だ。この映像では、彼の持ち味である歌声やグルーヴィなリズムのとり方を披露した直後、バンドの指揮を行っているであろう男が盲目のスティーヴィーの腕をひっぱり、ドラムセットへと誘導する。

今まさにドラムを奏でていた奏者が席を譲り、突然スティーヴィーがドラムを叩き始める。ド派手なフレーズとそのグルーヴがバンドの演奏をひっぱり始めたかと思うとバンドの演奏が突然ブレイクする。

ドラムソロの始まりだ。

バンドメンバーがこの動画をぼくに見せてくれた時ぼくらはなぜか爆笑した。盲目の天才シンガースティーヴィーがドラムを叩く姿がそんなに面白いのか?その独特の動きが滑稽に見えたのか?否、断じてそうではない。彼のプレイがぼくら爆笑を巻き起こしたのはそのプレイが上手かったからだ。

まず、この動画のスティーヴィーがぼくらのイメージしていたスティーヴィーよりも遥かに若いという驚きや白黒映像であることなどがフリとして働いたのだろう。そして、彼の持つ才能のイメージとしてはやっぱりピアノと歌声が印象的でドラムを叩くなんて考えたこともなかったからその期待値がグンと上がる。そして……

「上手いんかーーーーーーい!」

と見ているこっちの心のツッコミが入る瞬間にやっぱり笑えるのである。

あのスティーヴィーが、あの盲目天才音楽家、スティーヴィー・ワンダーが指揮者に手をとられ、半笑いのドラマーが席を譲り、座ったかと思うと超絶プレイだ。ミュージシャンにとって、これはもはや “フリ” と “オチ” のついたおもしろ動画でもあるのだ。

 “フリ” と “オチ” のついた楽曲「Little green bag」

渋くて怪しいベースライン。そこに乗っかるのは何やら悪そうなことを企んでるかのようなウィスパーボイスの歌い出し。すると徐々にバカバカしくも聴こえる裏打ちのギターフレーズが入ってくる。曲そのものがなんだか半笑いを始めたようにも聴こえる。

そして、サビに入ったとたんにとてつもない歌唱力で歌いあげ、底無しに明るい楽曲へと変貌する。積み上げた “フリ” の怪しさや渋さをぶち壊すほどの “オチサビ” だ!

しかしそのクオリティは超一流。ふざけているのか、大真面目なのか。その真意はわからない。笑っていいの?楽しんでいいの?この曲って一体どんな気持ちで聴いていれば正解なの?

この感覚は映画『レザボア・ドッグス』そのもの印象に似ている!

IMdbより

笑っていいの? 楽しんでいいの? 実はその全てOKなんです! あんなに血を見たのに、あんなにグロテスクな犯罪映画なのに、映画を見終わった後に湧き上がる感情は「面白かった!」という開き直りと少しのうしろめたさ。

悪だくみをする男たちが、汚い倉庫の中で仲違いによってほぼ全員死亡する。そこには感動のドラマが…….ない!なんにもない!全員死んで、終わり!あざした!

IMdbより

そして、最後に、「Little green bag」と『レザボア・ドッグス』の共通の “大オチ” はそのクオリティーにある。あれだけ極上の歌声や演奏、あれだけ極上のシナリオと演出、演技。そのクオリティーの高さにまた笑える。こんなにもバカバカしい悪ふざけ作品を何人ものプロフェッショナルが集まって一つの作品として残す。こんなに素晴らしいものは滅多に観られないし聴けない。

きっとどちらの作品も狭くて薄暗い部屋で悪だくみしながら作り始めたに違いない。きっとそうに決まってる。

 文・金城昌秀
編集・川合裕之

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解説『Little green bag』(1969)のタイトルの意味

 little green bagを小さい緑のカバンって一体なんの事だろう?と思いながら聴いていた方、多いでしょう。僕もずっとそう思って聴いてた。

実はこれGreen Bagと歌っているのではなく、Greenbackと歌っている。

Greenbackとは緑背紙幣、つまりドル紙幣の事で、金を追い求めた主人公が孤独になっていく楽曲だと言われている。

この「Green bag」にはたくさんの考察がされており、「green=まだ青い」などから若かりし頃の自分を指した言葉と解釈するものもいたり、英語圏の人でさえ、Greenbagをマリファナの入ったカバンだと思っていた人が多かった。

ではなぜ「Green bag」という表記になったのかというと、レコード会社がGreenbackのスペルを間違えてリリースしてしまった。
そして、この楽曲タイトルはLittle green “Bag” というタイトルのままヒットしてしまった為、Backには直さなかったのだという。

解説『レザボア・ドッグス』(1992)

IMdbより

監督:
クエンティン・タランティーノ
出演:
ハーヴェイ・カイテル,ティム・ロス,マイケル・マドセン,クリス・ペン,スティーヴ・ブシェミ,ローレンス・ティアニー,クエンティン・タランティーノ

2005年にイギリスの映画雑誌「Empire」が発表したインディペンデント映画ベスト50において『ターミネーター』(1984)、『ユージュアル・サスペクツ』(1995)といった作品を抑えて1位にランクイン。

本文の最後に「きっとどちらの作品も狭くて薄暗い部屋で悪だくみしながら作り始めたに違いない。きっとそうに決まってる。」と記したが、それもあながち間違いではなく、クエンティン・タランティーノ監督の脚本には、監督業を始める前の彼の職場であるレンタルビデオショップの映画オタク仲間たちとの会話がそのまま使われていることが多々あると言われている。

『レザボア・ドッグス』の冒頭のレストランシーン。半笑いでマドンナの『Like a Virgin』(1984)について口論するシーンでの会話などはレンタルビデオショップの店員同士のバックヤードでの会話を元に作られていると当時の職場の仕事仲間が明かしている。

豆知識:リバーブは「深く」かけたり「薄く」かけたり

もうひとつだけ!リバーブについて書かせて!というのも、ぼくが音楽活動をしていてずっと疑問に思っていたことがある。それはリバーブのかかり具合を表す際に、より多くのリバーブをかける際には「深く」と表現するのに対して、少しだけかける際には「薄く」や「うっすらとかける」などの表現をすることが多い。「深く」に対して「浅く」と表現せずに、「薄く」と表現する。逆に「薄く」と表現するけど決して「濃く」とは言わない。

また、「広く」と「狭く」といったように空間を意識した言葉を使う人もいたりで、ビギナーには言葉の混乱を招くことが多い。本当にみんな好きなように表現するからね。「湿った(wet)」「乾いた(dry)」なんて表現もあるなぁ。

なんでだよ!本当ミュージシャンてのはいい加減だな!なんて思ってた。

だけど、今となるとなんだかそれもわかる気がする。音楽は目に見えないし、それぞれの感じている表現やその時々で、たくさんの言葉が存在するからこその混乱なのだ!リバーブひとつかけるだけでもその時々で表現が変わってしまうものなのだ。

そして、エフェクトの中でもリバーブは本当にたくさんの表現が可能なエフェクトだ!だからこそ全ての表現は間違っていないし、時にはオリジナルな表現をすることだって構わない。そうやってたくさんの音楽のマジックが生まれてきたわけだからね!

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クラブやライブハウスでトランス状態になったことはあるだろうか。ぼくは何度も経験したことがある。もちろんNOドラッグで!お酒と音楽の相性の良さは侮れない。「ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!」ただただ、テンポ通りに一番大きな音がなっているだけだ。なのに、ここまで高揚する。
中でも『Trainspotting』(1996)のエンディングとしてあまりに有名な四つ打ちクラブミュージックの大定番はまさにそのトランス状態を作り出すために作られたような楽曲である。

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金城昌秀

ロックバンド「愛はズボーン」でGt.Voを担当。 様々なアーティストのMV監督や動画編集、グッズやCDジャケットといったアートワークも手がける。

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