Te wo Arai mashou.

最後に「Butter-Fly」が流れない理由 | 『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

ゴキゲンな蝶になりおれへんのですわ。

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は、曖昧な大人の境界線をデジモンを使って表現している映画だ。そして、「大人になんてなりたくない」なんて思っているぼくたちの背中をスッと押してくれる、そんな映画でもある。

※この記事は、店主のYouTubeラジオを再編集したものです。

モラトリアム状態
の悩みを描く映画

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は、デジモンシリーズ20周年を記念して作られた映画。デジモン初代スタッフとデジモンと共に育ったデジモン世代のスタッフが一緒になって作っている。

かつてアニメで放送されていた『デジモンアドベンチャー』の主人公、太一とヤマトが大学生になってからのお話。デジモンたちのキャラデザは変わらないが、太一やヤマトたちは2人の身体もはすっかり大きくなって、太一はタクシー移動、ヤマトは大きなバイクを乗りこなすようになっている。あとは部屋にエッチなビデオを隠し持っていたりもして。もうすっかり大人だ。

一見すると十分大人になった2人。しかし実は、俗にいう「モラトリアム状態」に陥っているのだ。「やりたいこともない……」「進路も定まらない……」というそんな煮え切らない態度だ。

太一とヤマトは大きな決断を迫られることになる。デジモンと別れるかどうかという決断だ。2人とも子どもの頃からのパートナーデジモンであるアグモンやガブモンとは仲良くやっているが、そのデジモンは「大人になると消えてしまう」のだ。

ぼくらが生きている世界では、大人になることで何かが消えてしまうことなんて基本的にはない。だから大人になることが一体どういうことなのか?がわかりづらい。でもデジモンの世界は違う。デジモンが消えることで大人になるということが可視化されるのだ。デジモンがいないことが大人だと明確に定義することができる。

大人になることが可視化されてる世界だと「自分は大人じゃない」と思っていてもデジモンが消えちゃえば大人なのか? それにデジモンが消えるのは、年齢のせい? 身体的な成長のせい? 精神的な成長のせい?そんな疑問が湧いてでてくる。

大学生だった頃に何も決断することなく、頭の中でああでもない、こうでもないと途方もないことを考えていたときに似ている。

一緒にいるデジモンは消える?消えない?

太一やヤマトは大人になる?大人にならない?

そもそも大人って何?

どうすれば大人なの?

そんなモラトリアム特有の悩みを描いたのがこの映画だろう。

Butter-Flyからの卒業

彼らのモラトリアムの悩みを象徴する「現象」がある。主題歌の『Butter-Fly』だ。

デジモンと言えば『Butter-Fly』と言っても過言ではないだろう。デジモン世代のぼくにとってもカラオケソングの鉄板だ。歌えば必ず盛り上がるそんな曲だ。『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』のオープンニングでもこの『Butter-Fly』が流れ、観客は一気に興奮させられるだろう。少なくとも僕はそうだ。小さい液晶のゲーム機をピコピコしながら、必死にデジモンを育てていた頃、かぶりつくようにして、キラキラした目でアニメを見ていた頃、そんな子ども時代を思い出す。

しかし、不思議なことにエンディングでこの思い出の曲は一切流れないのだ。オープニングでは子ども心に引き戻しておいて、最後は突き放す。「最後はもう一回『Butter-Fly』で最高に盛り上げて終わるんだろうな」っていう想像を見事に裏切ってくる。

映画を見ながら、観客も映画の中のみんなと一緒に成長を体感する仕掛けがこの映画にはほどこされているのだろうか。太一やヤマトがデジモンとの別れという大きな決断を迫られるように、ぼくらにも決断を迫ってくる。「君ももう大人になるべきだよ!」そう語りかけてくる。子どものままではいさせてくれないのだ。

だからゴキゲンな蝶にはならない。きらめく風にも乗らない。でもそれが大人になるということなのかもしれない。『Butter-Fly』からの卒業。

舞台はなぜ2010年なのか?

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の舞台は2010年の東京。2020年の春に公開されたこの映画の舞台がなぜ10年前の東京なのだろう?

映画公式サイトで確認しても「デジタルワールドを冒険した夏から10年以上が経過した2010年」というなんとも歯切れの悪い表現が載っているのみ。なんか納得いかない。

デジモンが子どもの象徴とも言えるデジモンの世界で、2010年にデジモンが消えてしまうかもしれない危機が訪れる。つまり2010年を機に大人になるということ。そうやって考えていくとある考えに辿り着く。もしかすると2010年のうちに、ぼくみたいなデジモン世代の人が大人になる必要があったことを暗に示してるのではないか?

2010年がタイムリミットだったんじゃないか?

そう考えて2010年の翌年、2011年に何があったかを思い返してみる。

あぁ、そうだ、東日本大震災があった年だ――。

編集後記

「大人になんてなりたくない」

大学生だった頃のぼくもそんなことを思いながら、大人になることを拒み続けていました。働いたら大人になってしまうと勝手なイメージだけで、バイトもロクにしませんでした。

大人になるってどういうことだろう? 30歳を前にした今でもさっぱりわかりません。でも、もう決断すべきなのかもしれないですね。自分自身で自分は大人なんだと――。「ゴキゲンな蝶にならず、地に足つけて頑張ろう」編集をしながらそう心の中で呟く。

大人になるって自分で決断できることなのかもしれないですね。

編集・佐藤純平

解説『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』(2020)

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

監督:田口智久

声優:花江夏樹, 細谷佳正, 三森すずこ, 田村睦心, 吉田仁美, 池田純矢, 榎木淳弥, M・A・O, 坂本千夏, 山口眞弓, 松岡茉優, 小野大輔 ほか

OPにはアニメシリーズ初代の『Butter-Fly/和田光司』が当時の原曲そのままに使われている。

2016年に上咽頭がんにより42歳という若さでこの世を去った和田光司氏。そんな彼の歌う『Butter-Fly』の歌詞に沿ったストーリー展開やセリフ、新キャラクターたちのデザインに心を奪われるファンも少なくない。

映画館を出た後に『Butter-Fly』をもう一度聴くことでデジモンへの愛が深まる作品である。

関連記事

ポケモンとデジモンの違いについて考える | 『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』レビュー(前編)

最近の投稿

「フラスコ飯店」は映画を通して新しい視点や知識を楽しめるwebメディアでございます。またのご来店をお待ちしております。