Te wo Arai mashou.

なぜタイムマシンが高級車デロリアンなのか?

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)が公開されてからもう随分と時間がたった。

あの映画による印象は俳優たちにも大きな影響を与えていてる。

ぼくは主人公マーティ役のマイケル・J・フォックスを他の映画やドラマで見た時にどうしても「マーティの人」という認識してしまうことがある。

そんなドでかい印象を与えるほどの『BttF』に最も影響を受けたものの一つにデロリアンDMC-12という車が存在する。

奇抜なデザインの車体にタイムトラベルを実現するための改造を施した最高にクールでかっこいい車。

デロリアンはBttFによって「バック・トゥ・ザ・フューチャーの車」というイメージを持つ大人気スターとなったのだが、実は悲惨な運命を背負っていたのだ。

稀有な才能と膨大な資金をかけて作られた、わずか8500台のDMC-12をめぐって繰り広げられた麻薬取引、裁判、そして破産。

その奇妙なまでに重なる災難と人間関係を実話を元に描いた映画が『ジョン・デロリアン』(2019)なのだ。

BttFの中で何故エメット・ブラウン博士はDMC-12をタイムマシンに改造したのか!

そして、ドクがDMC-12を所有していることで彼自身が「街に住み着く変なおじさん」であることが『ジョン・デロリアン』(2019)を観ることで明確になった!

当時のDMC-12の印象は「高い!もろい!イメージ最悪!」の三拍子が揃った評判最悪の車だったが、その後に映画『BttF』(1985)で新たなイメージを獲得し、完全な復活を遂げた奇妙な一台の車なのである!

デロリアンDMC-12は地の底から這い上がり、時空の間を冒険し、そして如何にして空を舞ったのだろうか!

一度でいいからデロリアンに乗りたい!

(C)Driven Film Productions 2018

小学生の頃、BttFを初めて観たぼくは「映画ってこんなに面白いものなのか!」と興奮していた。

映画ファンになり、BttFファンになると同時に、あの奇妙な格好をした車、デロリアンのファンにもなっていた。

「一度でいいからデロリアンに乗ってみたい!ていうかデロリアンが欲しい!」

小学生の頃のぼくはそんなふうに思っていた。

そもそもデロリアンという車は劇中に出てくる架空の車体だと勘違いしていたから、デロリアンのことをガンダムやトランスフォーマーのような夢の乗り物というように捉えていた。ぼく以外にもいるんじゃないかな。そういう人。だってあの見た目でタイムマシンなんだから「映画のためにデザインされた車なんだ!」って思う方が自然だ。

SF作品に出てくる奇抜な架空の乗り物。

そういう意味で「一度でいいからデロリアンに乗ってみたい!ていうかデロリアンが欲しい!」と思っていた少年のころのぼくに衝撃の事実が突き付けられる。

デロリアンは、実在する。

そう!あのガロウィングドア!塗装が剥げたようなシルバーのボディ!タイムトラベルは出来ないにしてもあんなに奇抜なデザインの車が世の中に生産されて販売されていたという事実には驚いた。

やっぱりありえないんだよね。あんなに奇抜でクールなデザインの車が実在するなんて。

BttFで有名になったから見慣れているけど、あの車が道路を走っている姿を初見で見ていたらもっと興奮したに違いない。

あの頃から抱き始めた「本当に一度でいいからデロリアンに乗ってみたい!」という夢はいまだに叶っていない。

DMC-12(デロリアン)は高い買い物

あの夢の車デロリアンDMC-12は一体いくら払えば手に入るのだろうか。

ずいぶん前から既に生産中止となっているDMC-12を購入しようと考えるともちろん中古車購入となる。2020年現在、日本の中古車販売サイトによると販売価格は800万円〜1000万円くらいで国内に販売中のDMC-12はインターネット上で4台見つかった。1000万円という金額がどのくらい額であるかは少年の頃のぼくでも理解できる。子どもでもわかる冗談みたいな金額だ。そんなに簡単に手に入れることができるはずが無い。

結局諦めモードに入っていた中『ジョン・デロリアン』(2019)という映画に出会った。一度はデロリアンオーナーを目指した男としてこの映画を観ないわけにはいかなかった。

映画の中で描かれるジョン・デロリアンとDMC-12の残酷な運命が現代のデロリアンの印象とは全く違っていたことに驚いた。

BttFで観た夢の車、DMC-12にはこんな過去があったなんて。

そして、それを作った男、ジョン・デロリアンの生き様、思想、センスに興味をそそられ、ぼくはまた「将来、車を買うならデロリアンにしよう!」と考えていたりする……

『ジョン・デロリアン』という作品が少しだけぼくの心を少年に戻してくれたのだ。

ということで、まずは今年の夏に免許を取りにいくことにしました。

無免許でデロリアンの値段を調べる根性、かなり少年の心に戻っていました。すみません。

デロリアンオーナーへの道はまだまだ遠いなぁ……

デロリアンという車のダークサイド

(C)Driven Film Productions 2018

BttFのデロリアンDMC-12はかっこいいしキラキラしていて、夢が詰まっている。だけど、『ジョン・デロリアン』を見るとDMC-12はデザイナーのジョン・デロリアンの夢であると同時にその周りの人間からすると金儲けの道具であり、また見栄をはるのための高級アイテムなのだということがわかる。

この映画はデロリアンという車のダークサイドを描いた映画なのである。

しかも、この映画はデザイナーのジョン・デロリアンを主人公に描いた映画ではなく、彼の大豪邸のお隣さんジム・ホフマンが主人公なのだ!

ジム・ホフマンは元々、麻薬の密売をしていたところをFBIに取り押さえられ、逮捕しない代わりにもっと大物の密売人を捕まえるための情報提供を命じられる。

その捜査の一貫としてサンディエゴ郊外の邸宅を与えられたホフマン一家。その隣の豪邸の持ち主こそがジョン・デロリアンだったのだ。

ホフマンの愛車でもある名車、ポンティアックGTOの開発に携わった超有名人のジョン・デロリアンと親密な関係になれたことに有頂天になるホフマン。

デロリアンが自身の夢を熱く語るのをきいているだけでハッピーになれる単純な性格であるホフマンはFBI調査官と麻薬密売組織のボスの板挟みに苦しめられる中で最悪のアイデアを思いついてしまう。

経営不振に悩んでいるデロリアンを麻薬密売に巻き込むことでその知名度と信頼度により組織のボスを信頼させる。そして、その密売現場をFBIに密告するという二重トラップを仕掛ける。

この映画は決して「デロリアンDMC-12がいかにして生まれたのか!」という映画ではないのだ!

ハラハラドキドキの麻薬取引シーンがあったり、ひとつの嘘で他人の人生を180度変えてしまう可能性のある裁判の証言シーンが見どころだ。

実話を元にしたシリアスでブラックなユーモアの効いたコメディ映画と言ったところか。

この映画で描かれている「有名なあの車」は少年に夢を与えるような高級車ではなく、嫉妬や成り上がり精神の渦に巻き込まれた悲劇の車であったのだ!

証言台に立たされたホフマンはデロリアンとの友情をとるのか、我が身の釈放をとるのか!

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デロリアンの破産
「高い!もろい!イメージ最悪!」
の三拍子揃った最悪の車

DMC-12の発売価格は2万5000ドル(現在の価値で約1500万円)と、まさに80年代のアメリカンドリームが詰まった高級車である。

しかし驚くことに、DMC-12の販売期間は1981年から1982年12月24日まで。

その生産台数はたったの8,583台と言われている。

なぜDMC-12は2年弱という短い期間で販売を終了したのか。

それは、高級車の販売に必要な資金が底を尽きてしまったためである。

北アイルランドに建造した工場の製造工程に不備があったため、トラブルが続出して予想外のコストが必要となった。その上、本来イギリス政府から得られるはずだった補助金がストップしたり、アイルランドが独立運動で政情が不安定となって物流が絶たれてしまったことも大きな影響を与えた。さらに、デロリアンが資金提供を受けていた人物が麻薬ビジネスに手を染めていたために、デロリアン自身がコカインの売買に関する容疑で逮捕されてしまう。

ジョン・デロリアンにかけられた薬物売買の容疑は、後の裁判で無罪となったが、社長の逮捕という一大スキャンダルは会社の経営にとどめを刺し、1982年にはデロリアン・モーター・カンパニーは解散。

DMC-12は本当に不運の連続の中で生み落とされた一台の車だったのだ!

会社倒産の3年後の1985年に『BttF』によってDMC-12が採用されなかった世界線を想像してみて欲しい!

きっとあの車のイメージは最悪だ。

社長が麻薬取引の容疑で逮捕。工場の不備によるキャンセルが続出。2年足らずで生産終了。

つまり1982年のアメリカでは「高い!もろい!イメージ悪い!」の三拍子揃った評判最悪の車、それがDMC-12だったのだ!

しかし、何故『BttF』で製作陣は1985年にそんな最悪なイメージの車、DMC-12をタイムマシンに採用したのか?

そして、どのようにしてその最悪のイメージを払拭し、少年に夢を与える車に進化したのだろうか!

街に住み着く変なおじさん!?
1985年、デロリアンを所持するとはどういうことなのか?

IMDb より

BttFpart1の舞台は1985年のアメリカ。

あの時代のデロリアンの印象は先ほど述べたように最悪だった。

そんな最悪のイメージを持ったDMC-12を巨大な納屋のような建物の中でコツコツと改造している。それがエメット・ブラウン博士、通称ドクだ。

しかも改造と言っても車オタクのそれとは違い、ヘンテコな機械をDMC-12にガチャガチャと剥き出しに貼り付けたような改造を施しており、どう考えても車検を通すことが出来ない誰が見ても一発アウトな雰囲気を醸し出す改造だ。

あんな車が1985年のアメリカで走っていたらそのオーナーは間違いなく街いちばんの変人である。

しかもそのオーナーの見た目は高身長、白髪の爆発ヘアーで目つきがギョロっとしている。性格を知らなかったら気持ちわるくて近寄りがたい。

ドクがサスペンス映画の登場人物ならあの見た目は最初に疑われるキャラクターだ。

納屋の中にはどうやら訳のわからない発明品がゴロゴロ転がっていて、なんの仕事で生計を立てているのか全く不明な人物なのだ。

おわかりいただけただろうか!

ドクことエメット・ブラウン博士は街に住み着く変なおじさんだったのだ!

BttFという映画の観客にはドクという人物がマーティの相棒であり、タイムマシンをつくった天才発明家として映っているかもしれないが、ヒルバレーの住人にとってはれっきとした変人なのだ!

ストリックランド先生もマーティに「あの男と関わると危険だ!」と注意していたよね!

ていうか、PART2の改変された1985年では精神病院に入れられてしまっているしね!

劇中のコミカルで優しくて頭のキレるドクを知っていると見失いがちだけど、あの人って結構危ない存在だったんだね。

挙げ句の果てにテロリストからプルトニウムを平気で盗み出す犯罪者。ドクはマジでイカれたおじさんだったのだ!

つまり、エメット・ブラウン博士がタイムマシンとしてDMC-12を選んだ理由ははっきりとはわからないが、映画製作陣がタイムマシンの車体にDMC-12を選んだ理由はなんとなく辻褄があうのだ。

見た目はあんなにクールでかっこいいのに、「高い!もろい!イメージ悪い!」の三拍子揃ったデロリアンDMC-12はエメット・ブラウン博士が作るタイムマシンの車体としてはうってつけだった!

なぜ、1985年のエメット・ブラウン博士が高級車のDMC-12を手に入れることが出来たのだろうか!なんて疑問もドクというキャラクターにかかれば簡単に解決してしまう。

目的のためなら機関車を谷底に落としたり、プルトニウムをテロリストから盗み出したり、友人の恋人を催眠ガスで眠らせるほどのいかれた発明家なのだから、デロリアンもきっと奇妙な手を使って手に入れたんじゃないかなぁ。

そんな想像も膨らんでくるものだ。

そして、1985年のBttF公開後、デロリアンDMC-12はタイムマシンの代名詞となり、最悪のイメージの車はいつしか少年の夢のマシンへと変わっていったのだ!

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DMC-12は
「かっこいい」のか?
「ダサい」のか?

IMDb より

「一度でいいからデロリアンに乗ってみたい!」と少年の頃に思い描いた感覚と『ジョン・デロリアン』(2019)を観たあとのぼくではきっとその感覚の深さは違うだろう。

人物や作品のバックボーンを知ることで得られる愛着はあの頃のぼくは持ち合わせていなかったのだから。

だけど、あの頃のぼくが感じた「デロリアンに乗ってみたい!」という感覚こそが本物であり、知識を増やすことで愛が深まったわけでもなく、見栄を張るために高級車を欲しがるでもなく、素直にデロリアンDMC-12という車のデザインに魅せられていたのだ。

ガロウィングドア!塗装が剥げたようなシルバーのボディ!タイムトラベルは出来ないにしてもあんなに奇抜なデザインの車!

いつか手に入れて町の変人となってやる!そしてぼくのDMC-12の走る姿をみた近所の少年の目を輝かせてみたいものだ。

解説『ジョン・デロリアン』(2019)

(C)Driven Film Productions 2018

監督:
ニック・ハイム

脚本::
コリン・ベイトマン

出演:
リー・ペイス,ジェイソン・サダイキス,ジュディ・グリア,コリー・ストール,マイケル・カドリッツ,エリン・モリアーティ,イド・ゴールドバーグ

音楽:
ローン・バルフ,キム・クルーゲ,キャスリン・クルーゲ

撮影:
カール・ウォルター・リンデンローブ

『ジョン・デロリアン』という邦題に「この男、詐欺師か天才か?」という宣伝文句。

日本語版の映画の告知のデタラメ加減はいいかげんにしてくれ!もう2020年だぞ。

映画の中でスポットの当たっている部分が全然違います。ちなみに原題は『Driven』

そもそもジョン・デロリアン自身が詐欺師のような振る舞いをするシーンひとつもありません。

麻薬密売が犯罪行為だとわかっていながら、それでも夢をかなえるために手を出してしまうその心情を描くワンシーンなんかは誠実にすら見えてくる。

DMC-12という一台の車をめぐって起きた実際の事件に基づいて描かれた作品なだけにドライブシーンの映像や車を映し出すシーンの演出、カメラなどはピカイチに綺麗です。

文と絵・金城昌秀
 編集・川合裕之(店主)

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は家父長制主義で白人至上主義? ロバート・ゼメキスの本心を探る

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は誰もが愛する名作ですが、実はこのエンタメ、用心しないと見逃してしまいそうな些細な些細な政治的メッセージが隠されています。それを大っぴらにすることなく、表面上では老若男女が理屈抜きで楽しめる。楽しめてしまう。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画の一番残酷なところです。良薬口に苦し。裏を返せば、甘いものは身体に悪いかもしれないということです。

ロバート・ゼメキスは稀代のエンタメ映画作家ですが、その一方で彼の映画を丁寧に読むと、実は意外に極めて政治的な人なのでは?としか思えないような映画の作りをしているのです。エンタメはエンタメ。そこに水を差すつもりはありませんが、敢えてこう書きましょう。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画は極めて「保守的」な映画であると。白人至上主義的で家父長制的な「強さ」の映画であると。

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映画音楽には
その時代の景色が詰まっている

音楽は映画にどんな影響を与えているのか。主人公の感情を表現したり、映し出されているシーンの意味を更に際立たせる演出であったり。

それと同時に、映画にとって音楽はその時代の音を表現する場合がある。

何年かたってから見返してみると時代の音を反映していたことがわかるのだ!

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金城昌秀 Written by:

ロックバンド「愛はズボーン」でGt.Voを担当。 様々なアーティストのMV監督や動画編集、グッズやCDジャケットといったアートワークも手がける。

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