Lo-Fi (Low-Fidelity)のこと。直訳的に書けば低い音質の音楽となるが、結果として低音質になったものではなく、ノイズを混ぜるなど意図して低音質に録音して提供する音楽のことを指すことが大半である。よれたへなへなの音像が特徴だ。2020年前後においては「ローファイヒップホップ」という語も広く浸透しているが、「ローファイ」という言葉およびその概念はヒップホップに限らずロックなどのバンドサウンドにも使用される。実は歴史的に振り返ればむしろそっちが先だ。
ローファイヒップホップ
音楽ジャンルでありながら「コミュニティ」「ネットミーム」としての側面を持つ。2018年にSpotifyで急成長したジャンル2位に選出された音楽ジャンルでもある。
「作業用BGM」としての側面を過分に含み、そのためローファイヒップホップと称される楽曲の多くは歌詞をともなわない。インストゥルメンタルトラックのみで楽曲が成立する。生放送のストリーミングで知名度を大きく上げた。ストリーミングチャンネルのチャット機能を通じたその場限りの交流という文脈がこのジャンルのキーとなる。「コミュニティ」の総称としても「ローファイヒップホップ」という語がある、という所以はここにある。
BGMとして消費されるため、代表的なミュージシャンを挙げずらいのも特徴の一つ。源流としてローファイヒップホップに影響を与えたアーティストとしてNujabesとJ Dilla の両名の名が語られることが多い。また「ローファイ」と冠されているが、必ずしもローファイな音質を求められるわけではない。ノイズ交じりでローファイに演出されたトラックこそ多いが、ハイファイな作りをしているものでもリスナーがいつどのように音源を流しているかによっては十分に「ローファイヒップホップ」に該当すると言える。
バンドサウンドにおける
「ローファイ」のはじまりは80年代
「ローファイ」という言葉・概念が欧米で一般的になったのは80年代。録音の技術が向上するにつれてエコーやエフェクト、オーバーダブなどを多用する楽曲制作が可能になり、こうした音楽が主流になった。要は「初期のMTVのあの感じ」だ。
こうした流れにカウンターとして生まれたのが「ローファイ」という概念だ。豪華絢爛なトラックから漂う商業的な匂いに対する反発、現実感のないサウンドに対するアンチテーゼでもある。アンダーグラウンドのミュージックシーンを中心に録音環境の形容を飛び越え、音楽志向や価値観を内包し、ある種のジャンルとして認識されはじめた。メジャーシーンにおいてもPavement やSonic Youthといったバンドらがローファイ志向の楽曲でしっかりとセールスを伸ばした。
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正確なピッチやBPMに依拠し過ぎない演奏、ヘロヘロで投げやりなボーカル、立ち位置が謎なボブ・ナスタノビッチの存在――。本稿ではそんな特徴も「ローファイ的」だと大味に定義。さらに、この定義を映画や漫画にも敷衍して、これに当てはまる作品をいくつか紹介します。
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