I’m back. Omatase. 

耳が覚えている映画 #3 『オーシャンズ11』

映画は娯楽か?芸術か?

ぼくの回答は「どっちも踏まえて芸術だし、どっちも踏まえて娯楽である」というような自問自答しておきながら、なんともすかした答えになってしまう。

あまりに芸術的な観点で映画を観てしまうと、ただただ派手で楽しい演出などを楽しめなかったり、逆に娯楽として楽しむためだけに映画を観てしまうと細かな描写や演出などを見落としてしまう。このバランスを絶妙に保ちながら映画を観賞することで視野を広げ、一本の作品からできるだけ多くの感動を得ることができると考えている。

それは、音楽に置き換えても同じことが言える。

今回の題材となる『オーシャンズ11』(2001)に採用されている楽曲の中にはアシッドジャズと呼ばれるようなジャンルの楽曲が多くみられる。この映画を知っている人ならそのサウンドを聴けば「オーシャンズ11らしさのあるサウンド」であることが認識できるだろう。

IMdbより

「踊れるジャズ」を目指して生み出されたアシッドジャズと映画『オーシャンズ11』に親和性を感じることができるのには理由がある!それはどちらもエンターテイメントとして「楽しい」ということに振り切って作られているということ。

ここで一度その「オーシャンズ11らしさのあるサウンド」の代表であるデイビット・ホルムズの『$160 Million Chinese Man』を聴いてみよう!

そうそう!これこれ!『オーシャンズ11』はこういうダーティかつ、お洒落なサウンドがとてもマッチする!

このアシッドジャズと呼ばれる音楽が一体どんな経緯で生まれたのか、そして『オーシャンズ11』の中でどのように使われているのか!そんなことを考えながら、ぼくの感じている『オーシャンズ11』のかっこよさと、バカバカしさを紹介していこうと思う!

上品とも下品とも捉えることができるBGMの挿入させ方

ぼくの感じる『オーシャンズ11』(2001)の印象はジョージ・クルーニーやブラッド・ピットと言った一流のオトナな俳優たちがフォーマルなスーツを敢えて着崩したスタイルで “上品とも下品とも取れる会話” を繰り広げ、高級そうなエビ料理を素手で口に運び、もぐもぐさせながら、これまた“上品とも下品とも取れるキメの台詞” をブラピの顔アップでドンと放つ!するとスネアの軽快なフィルインが「ズタタタッ!」とイン!

IMdbより

すると映像はラスベガスのゴージャスな夜景をバックに夜の海が空撮により映し出され、彼らの悪だくみスタートだ!もちろん音楽は軽快なドラムパターンとベースラインを基盤にしたアシッドジャズである!

はっきり言って、この演出で気持ちが高揚しない人は少ないんじゃないか?と考えられるくらいかっこいい!痺れる!ある意味下品だ!映画を “芸術” として捉える観客が劇場にいたなら、ここまでエンタメに振り切った演出を下品と捉えかねない!

だけど『オーシャンズ11』は止まらない!この映画はずっとそれの繰り返し!何度も同じ演出を見せられる。会話の内容と映し出されるラスベガスの画角と流れる音楽を組み替えているだけで、何度もこの演出を繰り返す!なんだか逆に面白くなってくる!ブラピが何かを口に運ぶ度に「早くアシッドジャズを流してくれ!」と期待してしまう。この視点で一度この作品を鑑賞してみて欲しい。ブラピがキャンディーを舐めているだけでなんだか笑える。

ただ、この演出には一つ大きな欠点がある。それは、やたらと金がかかっているように見えるし、多分実際に金がかかっている。ラスベガスの夜景をバックに夜の海を空撮する撮影機材(ヘリコプターを含む)や高級料理のエビ、フォーマルなスーツ、そしてブラピとジョージのギャラ。このカットチェンジひとつだけで金額を想像できないほどの気合の入り方である。

IMdbより

ではなぜ、そんな気合の入ったカットチェンジのきっかけとなる「ズタタタッ!」となるスネアのフィルインがアシッドジャズなのだろうか!まずはアシッドジャズの起源を簡単に見てみよう!

「踊れるジャズ」という音楽のスタイル

アシッドジャズとは、1980年代にイギリス・ロンドンをはじめとするクラブシーンで「踊れるジャズ」として生まれた。ハウスなどのクラブミュージックに近いイメージでジャズのおしゃれさを残しつつも、ハウスの高揚感を兼ね備えたハイブリッドなジャンルといえる。

音楽をジャンル分けすることやその音を言葉にして、文章にした時、それを読んだ時の虚しさはいつまで経っても拭えない。ぼくはこんなことを書くためにこの連載をはじめたのではないが、『オーシャンズ11』の中でよく流れている音楽を大まかにジャンル分けすると「アシッドジャズ」に該当することを認識しておいて欲しい。実はこういった “記号” としてのジャンル分けは虚しくも便利なのである!

大衆をジャズで踊らせた男 アシッドジャズの生みの親ジャイルスピーターソン

では、ぼくの考えるアシッドジャズとは一体なんなのか、というところを説明してみよう。その音楽がそのまま、ぼくの感じる『オーシャンズ11』という作品を代弁してくれるのだ。

まずは、アシッドジャズという名前を造ったとされているジャイルスピーターソンの演奏を少しのぞいてみよう。

スタイルとしてはDJであり極上のサックスのフレーズやビートたちをサンプリングし、それらを代わる代わるいくつも重ね合わせ「踊れるジャズ」を作り出した男である。動画の3:44あたりから入ってくる思わず踊り出したくなる超有名極上ジャズスタンダードの『SING,SING,SING』に誰もが体を揺らしてしまう四つ打ちビートを組み合わせる。フロアに厳格なジャズファンがいたなら下品だと感じるだろう。だけど、そんなことは関係ない!なぜならアシッドジャズとはそういう音楽なのだから!極上の録音環境で極上の演奏者が演奏した素材を使って人を踊らせるというかなり理にかなった音楽の作り方である!

つまり、アシッドジャズを聴く上で素材や演奏者が上品であればあるほどいいのだ!そして、その素材たちを下品なまでに大味にアレンジすることこそが醍醐味であるとぼくは考えている。その上品さを理解していれば理解しているほどに崩し方、汚し方にこそセンスが浮き彫りになってくる。

IMdbより

フォーマルなスーツ姿のブラッド・ピットと高級エビ料理。背景にはラスベガスの夜景を添えて。アシッドジャズ的思考でいうと、早くそのエビを素手で掴んで口に入れたまま下品な言葉を吐き捨ててくれ!という期待が膨らんできませんか!

極上の素材を使って下品にミックス!それが『オーシャンズ11』

映画を “芸術” と捉えた時にそのエンタメ性から下品にも取れる『オーシャンズ11』(2001)。歴史ある厳格な一面を今もなお守っているジャズという音楽をよりカジュアルに聴かせるアシッドジャズが合わさればそれはもう極上エンターテイメントの完成である!

IMdbより

シャツの第二ボタンを外した上からタキシードを羽織り首元には解けた蝶ネクタイをぶら下げたジョージ・クルーニーが刑務所から出所してくる。もう一度、美人な奥さんとやり直し、もう一度、泥棒をするために。アシッドジャズを映像化するとするなら完璧な画である。映画とは、音楽とはエンターテイメントであり、そこにカルチャーが生まれ、時が経ち、どこかの誰かがそれを芸術と呼ぶのかもしれない。

「ムショで結婚式か?」

ブラッド・ピットがキメ台詞を放ったあと、またご機嫌なアシッドジャズが聴こえてくる。下品で最高なエンターテイメントだ。

 文・金城昌秀
編集・川合裕之

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解説『オーシャンズ11』(2001)

IMdbより

監督:
スティーブン・ソダーバーグ

出演:
ジョージ・クルーニー,ブラッド・ピット,マット・デイモン,アンディ・ガルシア,ジュリア・ロバーツ

1960年の映画『オーシャンと十一人の仲間』のリメイク作品。レビュー集計サイト「Rotten Tomatoes」の批評コンセンサスで「テンポが良く、ウィットに富んでいて、スターが勢揃いし、クールでスタイリッシュに留まらず、エンターテイメント性にも優れている。オーシャンズ11は良く味付けされたポップコーン・エンターテイメント(深みはないが何も考えずに楽しめる映画のこと)である」と評価されている。

次作の『オーシャンズ12』(2004)では本作の豪華俳優陣が再集結し、本作以上に自由にキャラクターを演じている。そのため、会話の節々でアドリブが挟まれており、ストーリーを追いかけて観るよりも役者たちの会話を楽しむ映画となっている印象だ。

連載『耳映画』をおかわりしよう!

耳が覚えているあの映画#1『スタンドバイミー』

耳が覚えているあの映画 #2『トレインスポッティング』

耳が覚えている映画 #4 『ダークナイト』

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金城昌秀

ロックバンド「愛はズボーン」でGt.Voを担当。 様々なアーティストのMV監督や動画編集、グッズやCDジャケットといったアートワークも手がける。

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