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ポケモンとデジモンの違いについて考える | 『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』レビュー(前編)

※この記事は前後編に分かれていますが、どちらからお読みいただいても大丈夫です!

後編:無限大な夢の後の何もない世の中に生きる子どもたち | 『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』

アニメシリーズ20周年記念作品として2020年2月に公開された『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の舞台は2010年。

かつて  “選ばれし子どもたち” と呼ばれ、デジモンたちとの戦いの日々を送っていた主人公の八神太一たちは大学4回生。

卒業論文、就職活動、アルバイトといった忙しい日常に迫られる平凡な青年となって登場する。

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

この作品のテーマは「子どもから大人になる」という普遍的なものであり、デジモンリアルタイム世代のぼくは子ども時代から見た目も性格も変わった太一たちをみて自分に重ねた。

そんな大人になったぼくたちの「子どもから大人になるとはどういうことなのか?」という気持ちの落とし所をこの作品は提示してくれた。

だけど、この作品、一見すると腑に落ちないポイントが存在する。

めちゃくちゃ泣いたけど、腑に落ちない!
誰か説明してくれ!

それは「大人になればパートナーデジモンが消えてしまう」という設定だ。この制限のもとストーリーが展開するのだけれど、消えてしまうデジモンと消えないデジモンが存在するのだ。

その定義が「大人になる」というフワッとしたものだからなんとも腑に落ちない。
「大人になる」という曖昧な定義を『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は作品の中でどういう解釈の元制作されたのかを探ってみたところ、パートナーデジモンが消えてしまう子どもとそうでない子どもに大きな違いを見つけることができた。

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』という作品が指し示す「大人になる」とはどういうことなのかが分かったのだ!

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

それを解説するためには、まずアニメ『デジモンアドベンチャー』の放送がスタートした1999年頃の日本のホビーとアニメのメディアミックス戦略の歴史を掘り下げる必要がある。

進化し続けるアニメ『デジモンアドベンチャー』シリーズは、一体どんな進化を遂げてきたのだろうか!

アニメ『デジモンアドベンチャー』は
ポケモンを意識して始まった?

アニメ『デジモンアドベンチャー』は携帯ゲームのメディアミックス戦略により1999年にスタート。その頃のアニメ、ホビー業界は言わずと知れたポケモン大旋風だ。

アニメ『ポケットモンスター』(1997〜)は既にお茶の間の子どもたちの心を鷲掴みしていた。そんな中、どう考えてもポケモンを意識して生み出されたアニメ『デジモンアドベンチャー』。

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

当時9歳だったぼくですら、その異様さを感じていた。

いかにもポケモンの影をおって放映されたであろうアニメ作品だったからだ!

だけど、デジモンにあってポケモンにはない魅力がたくさん存在する。

デジモンは如何にしてポケモンとの差別化を謀ったのか。それはキャラクターのデザインや設定をバンダイが「かっこいい」に振り切ったということ!ターゲットを小学生男子に設定し、そのターゲットの心を揺さぶり続けてくれたのがデジモンだったのだ!

ポケモンでは届かない、かゆいところまで手がとどく!それがデジモンなのだ!

それらを紹介するためにまずはデジモンとポケモンの2作品がどんな風に似ているのか考え直そう。

デジモンとポケモンの類似点 その①
主人公の少年のパートナーとしてモンスターが戦う

主人公の少年の膝あたりのサイズ感の相棒モンスターが少年の代わりに戦うという構図はポケモンのそれそのもの。

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

強いて相違点をあげるならモンスターの重さが全然違う。ピカチュウはサトシの肩にちょこんと乗れる体重6kg(軽っ!?)なのに対し、アグモンの体重は15kg。足音や素早さから見てもわかるように太一の肩に乗るのは難しそう。

デジモンとポケモンの類似点 その②
主人公とパートナーモンスターのバディもの

サトシにはピカチュウ。太一にはアグモン。そう、彼らはいつも一緒でありそこには固い友情が存在する!

サトシにはピカチュウの他にも仲間のポケモンは存在するが、他のポケモンに対してピカチュウはモンスターボールに入らず、いつもサトシの隣にいるのはピカチュウである。そう設定することでピカチュウがサトシの相棒であることが更に際立っている。

(C)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku
(C)Pokemon (C)2017 ピカチュウプロジェクト

こちらも強いて相違点をあげるなら、ピカチュウは人の言葉を話せないのに対しアグモンは日本語ペラペラです。

デジモンとポケモンの類似点 その③
モンスターたちは進化し、姿形が変わる

そう!このモンスターの進化こそポケモンが生み出した魅力のひとつ!今やモンスターが進化することなんて当たり前だが、当時モンスターが進化して別のモンスターに変わるなんて信じられなかった。当時は『ドラゴンクエスト』のラスボスたち、りゅうおうやデスタムーアですら「進化」ではなく「変体」だったのだ!当時の小学生たちはそんな進化という設定に心踊らされまくりである。

そしてデジモンはこの「進化」に特化した作品を展開していく。

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

進化こそがデジモンの一番のテーマであり、今回の『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』(2020)はタイトルにもあるように、「最後の進化」をテーマに描かれているのだ。

デジモンとポケモンの類似点 その④
主人公は戦いのクライマックスで「いっけぇぇぇぇ!」と叫ぶ

少年とモンスターのバディものには欠かせない。最後のトドメをさす掛け声。「いっけぇぇぇぇ!」という少年の号令。今までは少年自らが戦うことが当たり前だったバトルシーン。相棒に号令をかける少年が存在してこそ成り立つこの叫びはこの2作品により生み出されたのではないか!

相違点をあげるとするならポケモンの「いけ!ピカチュウ!」に対し「いっけぇぇぇぇ!」と叫び散らす太一。

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

以上の4項目だけでもデジモンがポケモンをいかに意識していたかがわかる。そしてポケモンとの差別化をどんな風に謀ったのか。それを見ていこう!

ちなみに、テレビアニメ『デジモンアドベンチャー』が放送開始する前日に公開された劇場版『デジモンアドベンチャー1999』(1999, 細田守)の中で描かれたアグモンはアニメ版に比べて体はもう少し大きく、言葉も話さない。デジモンはデータ容量によりサイズを自在に操ることができる設定があるみたいです。

怪獣映画を目指して制作されたこの劇場版では戦闘描写がかなりリアルに書き込まれていて今見ても大迫力!

今回の作品『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』(2020)のOPで登場するパロットモンはこの『1999』からのパロディーなんですね!

 ポケモンの “しんか” と
デジモンの “進化” の違いとは

2019年に20周年を迎えたアニメ『デジモンアドベンチャー』。

ポケモンの影を追う形でスタートしたはずのこの作品が今やポケモンと比べる対象ですらなくなるほど独立したコンテンツとなった。

そんなデジモンはいかにしてポケモンと差別化を謀ったのか、それを読み解くことで最新作『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の隠されたメッセージが浮き彫りになってきた。

デジモンは進化に特化したモンスターだ。ということは先ほど紹介したけど、ポケモンの “しんか” とどう違うのだろう。

ポケモンの “しんか” はその名の通りで一度進化したポケモンは元の姿に戻ることはない。(特例はあるが基本的にはない)

デジモンの進化は一時的なものであり、進化と退化を繰り返す。

デジモンの進化は『ドラゴンボール』(1984〜)の悟空がピンチになれば超サイヤ人になり戦いを終えると元の悟空に戻るように、進化というよりは仮面ライダーやウルトラマンのような変身ものによく似ている。そして進化したデジモンは一時的ではあるものの姿形だけでなく性格までも成長する。

「自分がなりたいヒーローに変身して敵と戦う」ではなく、「モンスターをなってほしい姿に進化させて敵と戦わせる」というバトルシステムなのだ!

(C)本郷あきよし・東映アニメーション

進化したデジモンのキャラクターデザインもポケモンとは差別化を謀っていて、「強さ」に重きを置いて描かれている。

ポケモンのデザインはどこまでいっても角が丸く、攻撃的な側面はあるにしても「かわいさ」を消さないように描く。対してデジモンのキャラクターデザインはとにかく暴力的だ。鋭利な牙やサイボーグ化、兵器化といった戦闘をメインに描かれている。リザードンの牙の先端は丸いがメタルグレイモンの牙や角は確実に殺傷能力がある。

「かわいい」を大切にするポケモンにはできない「かっこいい」への振り切りが世の男子たちの心を鷲掴みにしたのだ!

それはひとつの商業戦略であり、やはりたまたまデジモンの「かっこいい」が世に受け入れられた訳ではない。そこには制作サイドの意図があった。

デジモンを生んだ大手おもちゃメーカーバンダイから96年に発売された携帯育成ゲーム『たまごっち』が女子高生を中心に大流行。売り切れ続出によりTVのニュースにも取り上げられるほどの社会現象を巻き起こした。

その翌年97年に「男の子向けの戦うたまごっち」として『デジタルモンスター』は発売されたのだ。

バンダイの公式サイトで公開されているプレスにもしっかりと「戦うたまごっち」と明記されている。
https://www.bandainamco.co.jp/releases/images/3/25576.pdf

そしてアニメ『デジモンアドベンチャー』(1999)は男子たちの大好きな「強くてかっこいいモンスター」をドンドン生み出し、アグモンたちと戦わせた。そして、そんなデジモンとパートナー関係を築いている太一に憧れを抱いた男子たちはデジモンの「かっこよさ」に痺れたに違いない!

もちろん、「かわいい」の方を好む男子たちがいることやセーラームーン、プリキュアといった戦う「かっこいい」女子向けのキャラクターが存在することは承知の上だが。

ただ、デジモンの「かっこいい」は世の男子たちに向けられたコンテンツであることは明らかなこと。

そう、デジモンは男子たちが思う存分に自分の信じた「かっこいい」を戦わせるためにはうってつけのコンテンツだったのだ。

「かわいい」ポケモンには「いっけぇぇぇぇ!」のように叫ぶ号令が似合わない。かっこいいデジモンだからこそ「いっけぇぇぇぇ!」の叫びは成立するのだ!

『時をかける少女』(2006)では主人公の “女子高生” が「いっけぇぇぇぇ」と叫ぶ姿が描かれているが、これもデジモン由来で、ここから引き継がれているのかもしれない。細田守監督は1999年のデジモン映画のほかに、『デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲーム』(2000)の監督も務めた作家なのだから。

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

つまり、「デジモン」という存在は、「かっこいい」を体現したものなのだ。

男の子向けに作られた「デジモン」は20年の時間を経てもなお、ぼくのようなリアルタイム世代の大人にとって「かっこいい」存在である。

そして、2020年4月から放送開始の新作アニメ『デジモンアドベンチャー』は今の時代を生きる子どもたちにとって「かっこいい」存在になるに違いない。

いつまでも「かっこいい」ものを追い求めていたい男子たちにとって、『デジモンアドベンチャー LUST EVOLUTION 絆』という作品の「子どもから大人になる」というテーマこそ「最後の進化」が試されているのかもしれない。

 文・金城昌秀
編集・川合裕之(フラスコ飯店 店主)

【後編へ続く】

次の記事で本格的に『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』のあの違和感に切り込みます。

「大人になる」ってなに?消えるデジモンと消えないデジモンがいるのは変じゃない? プロット甘いんじゃない?いやいや、実はそんなことないんです。

これには理由がありました。

謎を解く合言葉は「かっこいい」です。

この記事ではデジモンは「かっこいい」のコンテンツなのだと解説しまたが、「LAST EVOLUTION」ではその「かっこいい」を手放すか否かが主題だったのです。大人になる決断がキーなのです。

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金城昌秀

ロックバンド「愛はズボーン」でGt.Voを担当。 様々なアーティストのMV監督や動画編集、グッズやCDジャケットといったアートワークも手がける。

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