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ちはやふる特集③数字で検証する邦画主題歌:裏側から「FLASH」の必然性を探る

主題歌は主題以下の下世話なメッセージを放つことがしばしばであり、映画ファンの積年の悩みであった。――という表現はいささか過激でしょうか。

映画「ちはやふる」シリーズ3部作は、「少女漫画原作の映画化」という一部映画ファンにとっては頭の痛い呪いの冠を持ちながらも1000年後も残るであろう素晴らしい作品になりました。

ちやはふる特集①
西暦3018年の金曜ロードショーでも放映される映画?

ちはやふる特集②
誰の恋も成就していない少女漫画映画!?

何を語ろうとしているのか、なぜ恋愛ではないのか、という切り口でこの映画のことを考えて記事にしてみたところ、私たちとしては一旦はすとんと胸に落ちる結論に落ち着きました。はなから恋愛至上主義の呪いから解放されている綾瀬千早が、何にも染まらず彼女のままで生きた結果、かるたを通して「ひととの関係」という無形の財産を築き上げ、そして受け継ぐ物語だったのです。

こうした結論を胸に、改めて「ちはやふる」を観るとあることに気付きます。

それは主題歌の妙。Perfume が担当した2曲もまた、うえで述べたような「ちはやふる」の大切にする精神に沿った盤石な芯を持っていたのです。

少女漫画原作映画の降水確率は32%

少女漫画原作の映画化。それだけで頭痛のする呪の言葉です。「ちはやふる」をはじめ、例外だってあるだろうけれど、やはりこの言葉を聞いてある種のステレオタイプを頭に思い浮かべずにはいられません。

しかし、不思議とは思いませんか。

若手「イケメン」俳優と、若手女優の演じるふたりが恋仲に落ち、付き合うだの愛しているだのと甘い言葉を吐いたと思えば実は誰にも言えない秘密が。その秘密の病魔が二人を引き裂き、二人のバラ色の世界には一気に暗雲が立ち込める。刹那、文字通り土砂降りの雨。驟雨に打たれながら傘もささず走り、悲痛な叫び声で呼ぶ恋人の名前……。

実際に集計してみました

なぜかこのようなイメージが先行してしまう。読者の皆さんもきっと同じではないでしょうか。どうしてこうも同じイメージを共有してしまうのか。その正体を確かめるべく、私たち編集部は過去5年間の「少女漫画原作映画」の予告編から集計して、いくつかのデータを抽出してみました。

ふたりの間に秘密がある確率は24%で、全体の16%の映画では主人公が病気を患います。誰かが全力疾走する姿をカメラがドリーの横移動で追いかける確率は56%。つまり半分以上が「あのマリオのような画」になっています。なお、降水確率は32%。名前を絶叫する確率は12%と意外にも低い。きっとこの先入観は「セカチュー」の影響でしょう。

また余談ですが、ヒロイン役の16%が土屋太鳳で、相手役は20%の確率で山崎賢人が担当します。

「恋愛劇が期待できる映画」というジャンルの制約を別にしてもこんなに偏りが出るものでしょうか。

会いたくて産業構造

推して知るべし。キャリアの浅い若手キャストを登用し、ロケは少なく「学園」のセットがあれば事足りるプロットが大半です。となればスタッフの数も削れるし、それでいて一定数の動員は見込めることがわかっている。VFXもさして必要ありません。そんな「少女漫画原作の映画化」というローバジェットの「型」をルーティンにしないわけにはいかないでしょう。

ルーティンを増やすと仕事の「質」があがる

「型」を決めることが質とスピードにつながる

水野守『一番大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』

ここまで言葉にして、ようやくはっきりしました。「少女漫画原作の映画化」という言葉にともなう、いびつな感覚の正体はどうやらお金の匂いだったようです。少なくとも僕の場合は作品ではなく廉価の商品として矮小化されている現状が何だか憂鬱に感じます。

男と女の型にはめた恋愛を、型にはめた映画で。そんなの受け入れる人は型にはまっているに決まっている。そう思うのです。若い男性とと若い女性の若い恋愛。それを消費する若い男女。銀幕上の恋愛に見とれている自分自身をも消費することで、ようやく価値を見出す。若者の消費行動を、消費的に食い物にする業界の黒い一面を見せられたこといよる不快感でした。

甘い香りの「主題歌」たち

少女漫画原作映画の主題歌のうち、その76%が甘い恋の歌でした。

予告編で頭出しされているサビだけに注視して集計してもこの数字です。「恋の歌」とはいささか定義しずらい語ではありますが、以下のように判断しました。「愛している」, 「好き」というような直接的な言葉が含まれているものはもちろんのこと、「想う」, 「会いたい」というような言葉も「甘い」の定義に含めました。

愛してる。誰よりも、きみが思うよりも。

西野カナ「Bad time Story」
(『3D彼女』主題歌)

きっと人を想うことも 大切にするってことも
大げさじゃなくて君が教えてくれたんだよ

backnumber「僕の名前を」
(『オオカミ少女と黒王子』書き下ろし主題歌)

「ふたり」, 「きみ」といったカップルを連想させる言葉を持つものも含めます。少々恣意的とも思われそうですが、「きみ」という言葉を発するのは話者である「わたし」であり、話者は同時に歌い手でもある、という歌の人称の特性を加味します。

ただ泣いて笑って過ごす日々に隣に立って入れることで

GReeeeN 「キセキ」
(『ストロボ・エッジ』主題歌)

なお、観客の少なくとも半数以下が英語話者でないだろうことを理由に、『好きっていいなよ。』(2014)のOne Direction, 『PとJK』(2017)のBruno Marsによる楽曲は集計から除外しました。主観的に書いてしまえば言葉がわからなくともメロディや声質だけでも十分「甘い」と感じますが、これはまた別の機会に。

ともかく、従来の少女漫画原作映画は内容のみならず主題歌まで「甘い」のです。

甘くないPerfume のFLASH

さて、お待たせしました。ここでようやく「ちはやふる」とPerfume のお話に移ります。

少女漫画原作の映画と侮る気持ちはわかりますが、一線を画する壮大な世界観を味わってほしいです

オトナアンサーのインタビューより

「ちはやふる」シリーズの監督がインタビューでこのように語っています。驚くことに、小泉徳宏監督本人がです。彼自身も「少女漫画原作映画」へのネガティブイメージを持っているようです。しかしながら小泉徳宏監督は、見事にその呪縛を破り素晴らしい作品を――それも3作品も――仕上げたわけですが、その姿勢は主題歌にも反映されます。そうなのです。甘くないのです。

かしゆか:(中田ヤスタカ氏は)まだ音が入ってない状態の映画を横で観ながら曲を書いたって言ってました。原作を読んでないのにここまで「ちはやふる」の魅力を感じ取れてくれたっていうのが、すごくうれしいですよね。

音楽ナタリー, 括弧内筆者加筆。

「とある少女の、一瞬の命の輝きを切り取った曲」というオーダーに、中田ヤスタカさんは見事に応えて下さいました。

CINRAに寄せられた小泉徳宏監督のコメントより

「上の句」と「下の句」の主題歌であった「FLASH」は、まずは映画を礎にして楽曲が制作されていることがわかります。これを踏まえて改めて歌詞を確認してみましょう。

火花のようにFLASH
光る 最高のLightning Game

鳴らした音も置き去りにして

Perfume 「FLASH」

なるほど、たしかに映画の雰囲気を引き継いだ内容になっています。

まさかとは思い一応辞書でflashを引いてみる。心配いりません。恋愛に関する要素はありません。ぱっと輝く、発火する。というような意味が最初に出て、このイメージに付随する意味である「画像などがぱっと表示される」、「さっと通り過ぎる」などが延々と続きます。自動詞、他動詞にのみ最後の最後に「男性器をみせびらかす」という俗語が記されていますが、「まさか」で済ませておきましょう。

閑話休題。本題に戻ります。

恋とも全然違うエモーション

Perfume 「FLASH」

「上の句」、「下の句」の主題歌である「FLASH」では、このようにも明言しています。「FLASH」, そして「結び」の主題歌となった「無限未来」。いずれに置いても歌詞はもちろんのこと、MVや振付、パフォーマンス演出を見ても異性への恋愛を喚起する要素は感じられません。

振り返る、あのPerfume

とはいえ、Perfume の楽曲はFLASH や無限未来ほどクールなものばかりではありません。メジャーデビュー直前2000年代後半などは「近未来テクノポップ」という飛び道具ギミックを背負い(背負わされ)ながらも、立派な「アイドル」だった[*]のです。

[*]だった、と過去形で表現してしまいましたが、メンバー全員が30歳を迎えた今も依然として僕たちのアイドルであることには変わりありません。今年2019年の3月に大阪城ホールにて行われた7thツアー振替公演でもMCで彼女たちは自身を「アイドル」だとはっきりと明言してくれました。ありがとう……。

こっそり秘密をあげるわ
ずっと 好きにしていいのよ
きっと 君も気に入るよ
ふたり だけの特等席

Perfume「love the world」
(2008年リリース7thシングル)

あたしの斜め上 やさしく見下ろして
おでこを撫でるの ああ

Perfume「SEVENTH HEAVEN」
(2007 年リリース5thシングル「ポリリズム」のカップリング)

お願い 想いが届くようにね
とても心こめた 甘いの

Perfume 「チョコレイト・ディスコ」
(2007年リリース4thシングル「Fan Service[sweet]」収録)

お馴染み、中田ヤスタカ氏による詞をいくつか引用しました。キリがないのでこれ以上は控えますが、氏は女性目線で男性を想う言葉を拾い集めて形にする能力にも長けているのです。筆者含む当時のナードから近未来3部作と呼ばれるものを除けば、大抵が恋の歌あるいは恋の歌とも読解できる歌詞となっています。携帯を握りしめ、そして時がくればスマートフォンに持ち替え、きみからのメールを待っていたのです。

鏡像関係のPerfume

アイドルという看板をおろすことはなくとも、アイドルのみに縛られる呪いからはいつしか脱したPerfumeは、歌手名を指す語ではない狭義の「アーティスト」として、そしてある種の「アスリート」としても扱われるようになってゆきます。必ずしもハンドマイクを握る必要はなくなったのです。2012年には徳間ジャパンからユニバーサルへ事務所を移籍し、世界のマーケットをも視野に入れて活動をするようになります。

あ~ちゃん:(前略)ツアーでアルバムの曲を歌うのが今からわくわくしますね。「天空」はちょっと恥ずかしいですけど。

──恥ずかしいですか?

あ~ちゃん:ここまでまっすぐなポップスってひさびさなんですよ。最近は、救いのなさとか混沌とした感情みたいなことが多少なり曲に込められてたので。

音楽ナタリー

もちろん一切そうしたポップスに乗せた恋愛が一切無くなったわけではありません。たとえば「FLASH」の翌年2017年にリリースされた「TOKYO GIRL」の歌詞はその反証にもなりうる要素を含みますが、しかし2000年代後半の徳間時代のものに比べると主体的な詞である印象です。 詩にばかり注視してきましたが、音楽性も変化を重ねており、「TOKYO GIRL」や「無限未来」を含む「FLASH」前後ではフューチャーベースを下敷きとする国内では珍しい形の作品になっています。

ステップアップしながら自分たちの立ち位置を己の手で切り拓いてきた彼女たちの曲こそが、他人や社会に振り回されることなく自身の評価軸を定める「ちはやふる」シリーズの主題歌に相応しかったのです。長いキャリアの中で自分たちの姿を見つめてきた彼女たち。ようやくたどりついた今のPerfumeによる「FLASH」や「無限未来」にこそ意味があったのだと強く確信しています。

 文・川合裕之
編集・和島咲藍

【参考】

「「ちはやふる」シリーズ完結へ! 小泉徳宏監督が語る、その魅力と公開前の思い」
オトナアンサー 2018.03.10
https://otonanswer.jp/post/12009/2/

「Perfumeの新曲が『ちはやふる』主題歌、広瀬すず「素敵すぎました」」
CINRA 2015.12.03
https://www.cinra.net/news/20151203-chihayafuruperfume

「COSMIC EXOLORER」音楽ナタリー 2016
https://natalie.mu/music/pp/perfume11

「Future Pop」音楽ナタリー 2018
https://natalie.mu/music/pp/perfume14

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