I’m back. Omatase. 

安尾日向

安尾日向

いつまでもくよくよしてやるよ(97年生、大学院生) https://www.instagram.com/__sorekara

安尾日向の書いた記事

2021.05.07 / / コラム

(C)2020「私をくいとめて」製作委員会

高校からの友人たちとオンライン飲みをしていたときだった。オンライン飲みあるある:終わり方がわからなくてずるずる長くやってしまう。あのときも床にあぐらをかいて座って腰を痛めながら、盛り上がりのピークも超えたのにゆるゆるとしゃべっていた。

最近見た映画の話になった。ちょうど1回目の緊急事態宣言が解除されて映画館の営業が再開したころで、ずっと期待していた『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を映画館で見ることができて喜んでいた。

モニターには僕を含め4人の顔が写っている。男女2人ずつ。そのうち女性2人と僕の3人が『若草物語』を見ていた。「どうだった?」と問われた僕は、

「めっちゃおもしろかった。すごいアツかったよね」

と答えた。それを聞いた女性2人がどういう反応をしていたのか、僕はあまり覚えていない。仮想空間には共有できる空気はほとんどない。だから僕が覚えているのは僕の部屋の空気だけで、それは何かを避けて当たり障りのないことを言ったときの空気だった。でもその空気を覚えていることも忘れてしまっていた。

「あのときこんな会話したよな」

思い出話をしている途中、相手がこんなふうに言ったりする。

「そうやったっけ? そう言われたらなんかそうやった気するな〜」

みたいに返してしまう。自分のあまりの覚えてなさに愕然とする。恥ずかしくなるし、申し訳なくもなる。 “あのとき” を共有したはずなのに、自分のせいでその共有の度合いが弱くなる感じがする。相手とのつながりを、こちらが軽んじているように思えて、薄情なやつだと悲しくなる。

自分の過去の記憶を語ること、相手の記憶の語りを聞くこと、記憶を共有すること。ひとりずつで生きる私たちはそうやってつながりを作る。もちろん記憶だけがその材料ではないと思うけれど、記憶が果たしてくれる役割もやはり大きいだろう。でも記憶はままならないものだし、ままならないものを材料に作られるつながりも、きっとままならないものだ。

岸政彦の新作小説集『リリアン』は、記憶とつながりについて記した物語を収めている。表題作「リリアン」を、記憶・会話・アナロジーという3つのキーワードから読んでみようと思う。

(C)2020「星の子」製作委員会

「わけわかんなくなることってあるんだね」

姉・まーちゃんが幼いちひろに呟いたこの言葉は、私たちが生きていくなかで遭遇する “ままならなさ” を素直に表現したものとして私の耳に残った。

人生は、世界は、自分は、わけわかんない。

映画『星の子』は、自分の置かれた境遇を、周りにいるたくさんの他者を、そしてそのなかにいる自分自身を、どのように受け入れていけばよいのかという問いについて、煮えきらないまま考え続けるひとりの中学生の姿を描いた作品だと筆者は考えている。新興宗教という個別的なモチーフが用いられているが、それを通して抽出されているのは普遍的なテーマだ。

(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

もし筆者が平安時代の歌人ならば、『インターステラー』に捧げる和歌を「袖ひちて」という5音で始めることでしょう——それくらい涙を拭う羽目になります。

クリストファー・ノーラン最新作『TENET テネット』の公開に合わせ、彼の過去作が IMAX 上映でリバイバルされました。その最後の作品として、『TENET』へとバトンを渡したのが2014年公開作品の『インターステラー』でした。

地球環境が荒廃した近未来、人類を救うべく移住先となる新しい星を探しに宇宙へと旅立つ宇宙飛行士たちと、重力の謎を解明すべく奮闘する地球に残された飛行士の家族たちを描いた作品であり、特撮を駆使した圧倒的かつ美しい映像と、最新の物理学に基づいた科学的に非常に正確なワームホール、ブラックホール描写が目を引きます。さらにノーラン作品らしく「時間」を大きなテーマにしたプロットもファンにはたまりません。

前作『ダンケルク』から3年、新型感染症による映画産業の危機のなか公開された『TENET』は、奇しくも6年前の作品である『インターステラー』と似た構造を持っていました——「時間」を描写・ストーリー双方の大きなテーマとし、「世界を救う」という命題を主人公たちが背負っているという点で。

2020.09.13 / / コラム

(C)2019 Columbia Pictures Industries, Inc. and Tencent Pictures (USA) LLC. All Rights Reserved.

映画館で『幸せへのまわり道』を見た帰りのバスのなか、窓の外を降る小雨を眺めながら僕はある歌を思い出していた。The Cure の “Boys Don’t Cry” という曲だ。映画の話をする前に、少しまわり道をしてこの歌の話をさせて欲しい。

目次
・〈Boys Don’t Cry〉=男の子は泣かない
・男性性の枷に迷う記者とミスター・ロジャースとの〈対話〉
・ “Don’t boys cry?” という問いと迷い、そしてその先へ

(C)2020「MOTHER」製作委員会

上映時間、2時間6分。長く重く、どろついた時間をかけて底のほうに溜まっていく沈殿。ラストカットの長澤まさみの顔はその澱(おり)を眺めているような、あるいは澱そのもののような表情であった。

あの表情は、あの沈殿は、ひいてはあの作品は、何を描いていたのだろうか。

これもマスト?あれもマスト?

世の中にはコンテンツの品数が多すぎる。

どんなカルチャーを食べてよいかわからないと悩まないよう、フラスコ飯店が食べ合わせの良い「定食」を自信をもってご提案いたしましょう。

脳みそが痛くなったことありますか?

「膝が笑う」とか「腰が重い」みたいな慣用句として、「脳みそが痛い」があってもいいと思うんですよね。僕はたまにそういう感覚になることがあります。難しい本を読んでいるときとか、意図的に受け手を迷宮に誘い込んでくる映画を見ているときとか。何が何だかわからない! でもめちゃくちゃおもしろいことだけはわかる。痛みでアドレナリンが出ているのがわかる。そんなとき。

この定食では、そんな「脳みそが痛い」作品を集めてみました。

おしながき
・映画『メメント』
・小説『道化師の蝶』
・映画『メッセージ』

CAUTION!!

これはイラストレーターの逆襲です。

WEB記事において、“アイキャッチイラスト”とは、記事ありきのイラストです。

「ライター陣ばっかり好きなもの好きなように書くのずるいよ!」

そんなイラストレーターの一声から始まりましたこの逆襲。

イラストレーターが描きたいものを自由に描いて、それに沿ってライターが執筆する。これは、記事ありきのイラストというこれまでの制作の流れを止め、イラストありきの記事にするという、超我儘企画です。

詳しくは
私、フラスコ編集部に逆襲します。

第一回はライター・安尾日向に逆襲!

僕はフィルム写真を撮っています。大学生になってからはじめたので、3、4年でしょうか。あまり人は撮りません。その辺の道端に落っこちているものとか、よくわからない風景とか、そういうものを撮っています。きれいな写真になることもあれば、そうならないこともあります。そんなに熱心ではないですが、細々と続いています。

——あなたなら、①と②のどちらを選ぶだろうか? 僕は①の「だけど」を選ぶ人のほうが多いと予想する。

どうして「②だから」ではなく「①だけど」が入ったほうが自然な文に思えてしまうのか。この記事のテーマはまさにこの疑問にある。

「共感」と「おもしろいかどうか」。2つの間に結ばれた関係はどのようなものか。小説「劇場」を通して考えてみよう。

2020.03.19 / / コラム

(C)2017 Twentieth Century Fox

僕は大体いつも、くよくよしている。個人的なことにも、社会的なことにも。

たとえば、高校時代の友だちとの関係について。会って話せば別に仲良くできるけど、SNSを見ていると価値観が自分とは違うことがよくわかる人がいたとする。その人の呟きを見て「あ、そこそんなふうに言っちゃうんだ……」と胸にもやが生じる。

価値観はみなそれぞれで、みんな違ってみんないい。けれど、自分が大切にしたいところでズレを発見してしまうと、困ってしまう。しかもそのズレが、僕との一対一の関係ではあまり現れない場合、余計に困る。露骨ならもうその人から離れてしまえばいいけれど、そうでないなら、目を瞑ればいい話なのかも……。どうするのが正解? わからない。

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