フラスコ飯店 Posts

(C)2018 A24 DISTRIBUTION, LLC

それは単なる杞憂でした。SNS時代の青春映画、と配給に題されたこの映画にいささかながら不信感を覚えていた自分を強く戒めながら僕は映画館をあとにする。

「いま」はいずれ「むかし」に成り代わることは必至。SNSを題材にすればたしかに身近なものを克明に描くことができるかもしれないが、その反作用として足の速い映画になってしまう。そう思われてしまうのも無理はないでしょう。いいえ、でも大丈夫。『エイス・グレード』は思春期の僕たちを苛んできた自意識、という強靭な普遍性に支えられているのです。

これもマスト?あれもマスト?

 世の中にはコンテンツの品数が多すぎる。

 どんなカルチャーを食べてよいかわからないと悩まないよう、フラスコ飯店が食べ合わせの良い「定食」を自信をもってご提案いたしましょう。ひとつのテーマに沿って映画・書籍・音楽……などなど媒体を横断した鑑賞セットを考案します。

今回のテーマは「記憶」。記憶は記憶でも、九九の暗記などの単純な記憶力の話ではなく、「誰かの存在を覚えていること、思い出すこと」に焦点を当てます。さらに今回は、「記憶」をモチーフにした作品の中でも、日常のとりとめのない場面に記憶の焦点を当てていたり、時間を超えた記憶を描いている3作品をセレクトしました。

「あなた」のことを覚えている。だからこそ「わたし」はここにいる。

あなたとわたしの「記憶」定食、召し上がれ。

お品書き

・小説『図書室』
・漫画『不滅のあなたへ』
・映画『A GHOST STORY』

「本当は甘いコーヒーが飲みたいのに、レジの店員さんに格好悪いと思われるのが嫌だから、飲みたくもないブラックコーヒーを買って、いつも後悔するんです」

飛ぶ鳥を落として焼いて食べるくらいの勢いで活躍しているお笑いコンビ、宮下草薙の草薙くんが、何かの番組でそんなことを言っていた。痛いほどに分かる。

趣味嗜好を人に暴くのは心の底から恐ろしい。「そういう人間なんだ」と一度思われたら、その引力からは二度と逃れられないような気がする。

自意識はオーバードライブするとどんどん悪い方向に働く。誰もそんなことは思わないはずなのに、自意識自身が「あなたは甘いコーヒーを買う人間なんですね、ははあ」と嘲笑する店員を自分の中に作り出してしまうのである。

2019.08.17 / / 特集