I’m back. Omatase. 

カテゴリー: コラム

・Sony Pictures Entertainment

映像制作会社に勤める傍ら、本の企画・制作や編集、時には文章を書いていたりしています。

出版業界の超超端っこの方におりますと、たまにこうやってフラスコ飯店の店主のような酔狂な方が「おい!何か書かへんか?」と依頼をくれます。ありがたい限りです。ありがとう店主。コロナ気をつけてね。ありがたいけど、何を書こう。

文・西川タイジ

1986年山形県生まれ。『トーキョーブンミャク』運営。肩書きは特にありません。好きに呼んで下さい。編んで書いて読んで飲んで観て聴いて泣いています。 

今回はとりあえず、私の好きなロックに関連した青春映画の話をさせてください。

2020.12.16 / / コラム

「あなたの趣味はなんですか?」

「私の趣味は映画を見ることです」

私にとって初めて会話する人との定番のやりとりだ。映画を見ることは面白い。当たり前だ。もちろん作品それぞれによって好みの差があったり、退屈に感じる作品もあるが基本的に全体として映画鑑賞という行為は楽しく、毎度ワクワクする。

でも時々フッと糸が切れたように映画を見る気が起きない時期がやってくる。映画を見ていることが当たり前になりすぎて、映画一本一本に対してのめり込むような感動や心からの「面白い」という感情を自分は本当に持っているのかわからなくなる。

え?? 本当に私って映画好きなの???

この文章は過去の私が抱いた映画に対する「面白い」という感情に真っ向から向き合い、「映画が好きな私」を取り戻す文章である。

2020.10.31 / / コラム

クィア・アイというリアリティーショーをご存じですか。決して誰も傷つけることのない無条件の愛に満ちた幸せなリアリティーショーです。人生に疲れてしまった人のもとに「ファブ・ファイブ」が足を運びます。その人たちはカルチャー、食、ファッション、ヘアメイクやインテリアなどのスペシャリスト。衣食住をあらゆる角度から見直し、疲れたその人の暮らしを人生を輝かせて再起させてくれるのです。

海外ドラマファンやネトフリフリークのみなさんにとっては「何をいまさら」と思われるかもしれませんね。知っている人は知っている超オバケコンテンツ。2018年に配信がスタートした Netflix オリジナルドラマであり、これまで6つものシーズンが配信されています。いいなあ。僕の所にも来てくれないかなあ。

僕も大好きなシリーズです。

けれど、どうにもこうにも心配性の僕は、手放しに喜べない。

もしかしたらこの企画、実は惨酷なのかもしれません。

便器と顔を向き合わせ、胃の下あたりに力を入れる。 わざとえずく様に声と息を吐いて体内のアルコールを口から出し仕切るまで何度もそれを繰り返す。 普段は極力、触りたくない便座を両手で掴み胃の中の必要な水分までも全て吐き出す。 酒を飲みすぎて冷静な判断が取れなくなった時の最終手段だ。 喉は胃液で荒れてしまって、一気に空腹になり、心も空っぽになった気分。 意識がいつもよりすっきりしているような、しないような。 洗面所にて涙目の顔を水で洗い流すと鏡に映る少し顔を赤くした男を見ているとなんだか生まれ変わったような錯覚に陥る。 まるで昨日までのスト…

2020.10.02 / / コラム

最近父親に似てきた。若い頃の父の写真なんかを見ると顔や体型なんかはそっくりだ。 それだけじゃなく、歩いている時の姿勢や何気ない仕草、声の発し方なんかも「今の言い方、父さんぽいなぁ」と自分でも驚くことがある。 それらは遺伝子レベルの先天的な影響なのか、幼い頃からの生活の中での後天的な影響なのか。どちらにせよ自分自身を構成しているものたちは無意識のうちに何かから影響を受けているということを最近は自覚するようになってきた。 好きなお笑い芸人の番組や動画を見続けているとその人の話し方をいつの間にかトレースしていることもよくある。 好きすぎて …

2020.09.13 / / コラム

(C)2019 Columbia Pictures Industries, Inc. and Tencent Pictures (USA) LLC. All Rights Reserved.

映画館で『幸せへのまわり道』を見た帰りのバスのなか、窓の外を降る小雨を眺めながら僕はある歌を思い出していた。The Cure の “Boys Don’t Cry” という曲だ。映画の話をする前に、少しまわり道をしてこの歌の話をさせて欲しい。

目次
・〈Boys Don’t Cry〉=男の子は泣かない
・男性性の枷に迷う記者とミスター・ロジャースとの〈対話〉
・ “Don’t boys cry?” という問いと迷い、そしてその先へ

どうしようもなくへこんでしまったら、とりあえず踊りませんか。

曲をかけて、好きに体を動かすだけ。すごく簡単です。

みんなは普段、人前で踊りますか?

私は踊りません。ほぼ。

(C)東海テレビ放送

地元と呼べるものを持っていない。兵庫で生まれ、熊本に暮らし、また兵庫に戻ったかと思えば、次は埼玉へ。おまけと言わんばかりに兵庫に帰り、最終的には埼玉に落ち着いた。できそこないの反復横跳びのような家移しであった。

社会の授業で「外様大名」という概念を習った時のことをよく覚えている。「外様」とことさら強く書きつけたノートを見て、「どこに行っても外様であることよ」と思っていた。幸いにも転校先で除け者にされるようなことはなかったが、皆と共通の思い出を持っていない疎外感を覚えることは多々あった。

とはいえ、なんだかんだで中学生からは埼玉にずっと住んでいた。市内の高校に進み、二十歳になってからは国道沿いの寂れたラブホテルでバイトを行い、大学にも実家から通った。ただ、何か小さな解れが起こって、埼玉ではなく兵庫県で暮らしていたらどうなっていたのだろうと感じることがある。

(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

意識を失って目覚めた時、冬の始発に充ちる空気のように頭が透き通っている感覚が忘れられない。山岳ベース事件を起こした連合赤軍の森恒夫が「自己批判」「総括」として他人に暴力を振るい、共産主義を盲目的に信奉する革命戦士として生まれ変わらせようとした契機は、自身が気絶した後に「生まれ変わったような心地がした」からであるらしい。

正直、分からなくもない。顎に足先が掠めただけなのに、いとも簡単に意識が攫われる。幼い頃から空手を習っていた自分にとって、暴力は隔日の夜に訪れる信仰対象のようなものだった。

(C)ジョージ朝倉/講談社 (C)2016「溺れるナイフ」製作委員会

就職活動中、「ラブホテルの立ち上げを経験しました」と話すと、たいていの面接官は面白がって話を聞いてくれた。

実際にはリニューアルオープンするラブホテルのオープニングスタッフとして雇われたにすぎない。大量の避妊具をもぎって箱に詰めたり、電気マッサージ器の本数を数えたりした程度だ。が、有象無象の就活生から脱して「ラブホテルの子」として認識されるだけで選考の突破率は格段に上がる。

結局、ヘルプも含め、3つのラブホテルで働いたのだった。最後は「ホットドッグセットではなくホットライスセットを頼んだ」と意味不明なクレームをつけてきた熟年カップルに「お客様、世の中のライスはほとんどホットでございます」と癇癪を起こしてしまい、バカらしくなって辞めた。それ以来接客業らしい接客業はしていない。

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